いつか台風いつか 2018年3月18日(日)午後4時00分 会場:GALLEY・SOAP 【概要】 第1回全国学生演劇祭上演作品「あしぶみ」以来となる劇団コックピットの新作 【感想】 第一回全国学生演劇祭で特に気に入った劇団コックピット。 その際上演された"あしぶみ"以降、1年半ほどの期間を経て発表されたのが今作で、まず2018年2月に福岡市で上演され、3月18日に1日限りの小倉公演が行われた。 小倉での会場舞台となったGALLERY SOAPは、小倉駅から徒歩約5分のところにるカフェ兼イベントスペース。 打ちっぱなしの床に、真っ白い短冊状のカーテンで囲まれた舞台。中央には渦を巻くような白い布。 そんなに大きくない舞台を2面から囲む20ほどの座席数。ソファのゆったりとした席に腰掛けてドリンクを飲みながら観れるという、贅沢かつアットホームなムードが非常に心地よい空間だった。 やがて村上真理さん、関大祐さんが登場。村上さんが... 今から始まる劇は、この渦の周りを回って行われます。 練習しながら、目が回りそうになりましたが、観ている皆さんも気を付けて。 観ていて目を回さないように、深呼吸をします。良かったらご一緒に。 3回深呼吸が終わったら、上演開始です。 こうした説明をしてスタート。 始まる前に説明が入るのはあまり好きではないが、今回は広めの家で、家族に見せるような、招いた客に聞かせるような。 2人と一緒に深呼吸して、客も一緒に物語の世界に入っていくという、アットホームな空気感にあった良いイントロだった。 劇は、渦の周りを2人が走ることで演じられる。 祖母が亡くなった。祖母の葬儀へ、遠い故郷までの道程で、祖母との記憶を辿っていく。 台風が迫る中、必死に辿るが、覚えているのは... 遊びに行くと、いつもお菓子をくれた。でも、そのお菓子はただ砂糖を固めただけのゼリーとか 、包装紙まで食べられる飴とか。古風すぎて、僕はいつも「いらない」って言って食べなかったな。 お祖母ちゃんは「なんでだい?」って言ってたな。 帰る時、お祖父ちゃんと握手した。お祖父ちゃんは強く握り返してきた。お祖母ちゃんも強く握り返してきた。お祖母ちゃんは、「またおいで」と何度も呼びかけてくれた。 あとは何だ?毎年必ず会っていたのに。長い時間一緒に過ごしたのに、少ししか思い出せないなんて。こんなことしか思い出せないなんて。 いや、まだある。もっと思い出すんだ。 入院して、痴呆が進んで、僕のことも忘れてしまって何度も同じように呼びかけて……。そして……。 いる時は、それが当たり前で。有限であることも忘れがちで。 沢山の期間を過ごしていても思い出も記憶も残らない。 台風のように、色んなことが知らないうちに発生し、やがて「一過して、いつかの出来事」になっていく。 でもふとした「きっかけ」で思い出せることもあれば、やっぱり忘れていることもある。 でも、いいじゃない。そういうもの。何もかも全てを記憶できるわけじゃないし、全ての感触を手が覚えているわけでもない。 それでも、そんな自分に気付いた時、人は寂しさや後悔、哀しみを感じ涙する。それが人。 「祖母の死」がテーマで白い舞台。さらに舞台上をぐるぐる走るのは、最近観たハイフライプロジェクトの「今夜、あなたが眠れるように。」も思い出されるが、あちらが一歩引いた立ち位置から客観的に「死」に直面した家族のストーリーを描いたのに対し、こちらは祖母を亡くした主人公の内面に焦点を当て、一人称で進む。その主人公に自分を重ね合わせ没入していく感覚だった。 「何故、走るのか?」の伝わりやすさ、白い短冊カーテンの使い方などについては、本作の方に上手さを感じた。 台風の風速を示すかのごとく猛烈な勢いで走ったり、カーテンをかき回すことで感情や強風を視覚的に表現したり。 狭い空間なので、(空調も操作してたかもしれないが)走ることで風が起き、かき乱され。 それは時に強く、時にそよ風のようで。そして時に2人は立ち止まり、風も止まる。 まるで、心模様のようでもあり、心と無関係に荒れる台風のようでもあり。 時と記憶の関係は好きなテーマなので、その辺も含めて本作はかなり気に入った。 そういえば、同じ第一回全国学生演劇祭の時、poco a pocoが、「大切なこと?忘れたっていいじゃん。また思い出せば」と明るく言ってたな、とか。そんなことも思い出した。 それにしても村上さんの演技は、やはり素晴らしい。 特に今回凄いな、と思ったのがお祖母ちゃんの演技。 年老いた女性を演じる場合、話すスピードを落とすというのは結構見かけるが、彼女はスピードは落とさず、声色だけを老けさせて見事なお祖母ちゃんに。 さらにお祖母ちゃんの痴呆が進んだ場面でセリフまわしのスピードを落とすことで、老いと病気レベルを二段階で表現していた。 関さんが、お祖母ちゃんが亡くなった瞬間について語るシーンも良かった。 あの辺りから、観ていて涙が出た。そして演じている2人の目にも涙があって、気持ちを共有している感があった。 あしぶみでも感じたが、コックピットの劇は味わいと温かみがある。 脚本を書いている雪見さんと、それを一番良い形で演じる村上さんコンビは今後も観たい。 余談ながら。私、終演後に演者の方にお見送りされるのが(緊張するので)苦手なのだが。 この日ばかりは、思わずこちらから「良かった!」と話しかけてしまった。 多分、抵抗なくそうさせてしまうのも、コックピットの持つ温かいムードゆえなのだと思う。 |
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