第一回全国学生演劇祭 2016年2月27日(土)午後6時00分開演 会場:アトリエ劇研 【概要】 全国学生演劇祭は、札幌・東北・東京・名古屋・大阪・京都・愛媛・福岡でそれぞれ運営されている学生演劇祭から、推薦を受けた団体が集い上演を行うイベント。 観客賞と審査員賞、それらの合算による大賞が選ばれる。 【感想】 最近、学生演劇はご無沙汰だったので、久しぶりに行ってみた。 私が観たAブロックは、龍谷大学の"劇団未踏座"、福岡教育大学演劇部から生まれた演劇ユニット"コックピット"、名古屋学生演劇祭より推薦された"poco a poco"の3組。 会場のアトリエ劇研は小ぶりなハコで、座席は11席×5列ほど。 アンケートと一緒に採点表が配られ、5点満点で評価するシステムだった。 では、3組それぞれの感想をば。 ネタばれ有りですが、悪しからず。 1組目:劇団未踏座 【Nihon】〜名もなき銀色の国〜 とりあえず入試で合格することを目指して予備校に通う私。 一緒に大学受験し、合格を目指す友達。 別の友達は、予備校に行かずザリガニ売りになった。 なんのために大学に行くんだろう?なんのために生きるんだろう? そんな思いを抱きながら、灰色の高校3年間を過ごしてきた私。 そして、また別の友達は、センター試験の日に鉄塔から自殺した。 なんだか先を越されたような気がした。 その後、私は大学にも行かずニートの引きこもりになった。 みんな私を気遣ってか、家に来てくれていたが、やがて名前で呼んでいたのが苗字で呼ぶようになり……。 それぞれが新たな生活を得て、徐々に疎遠になっていった。 浪人生だった頃はよく来ていた友達も、大学に合格した。 みんな何のために生きるんだろう?生きる目的がないなら死ねばいい? いや、みんな目的なんて最初から見つけていないんだ。 生きる目的を探すためにも、布団を出て、生きてみよう。 こんな感じのストーリーだったか。 全体的にテンポが速すぎて、セリフも早口気味でした。緊張していたのかも。 台本もエピソード詰め込み過ぎな感があり、あとの2組に比べるととっ散らかってしまった印象は拭えなかった。 ただテーマも含め、学生らしい演劇っていう意味では、一番学園祭的な作品。 序盤で、演劇祭自体の説明やストーリー説明をするシーンがあったのだが、あれはトップバッターはやらないといけないのかな? ああいうのは、劇が始まった後だと、個人的に白けるので、マストならちょっと可哀想だったかも。 2組目:演劇ユニットコックピット あしぶみ 戦争で息子・誠一を失った夫婦。まだ死んだわけではない。帰ってくるかもしれない、と諦めきれずに家の縁側で息子を待つ2人。 一緒に戦争に行きながら、自分だけが無事に生還してしまったことに苦しむ友人・宮本。 誠一の妹・夕子と結婚し、自分だけ幸せになることへの罪悪感にも苛まれている。 幼馴染・佳代は失ったことで、誠一を好きだった自分の気持ちを知る。 彼女もまた彼を失ったことで、前に進めなくなっている。 そして誠一。その魂は縁側に舞い戻り、家族に、友人に「ただいま」を告げる。だが、その声は誰にも届かない。 残された人たちは、やがて誠一の死を受け容れて前を進もうとする。 そんな中、「私はまだ誠一の死を受け容れられない。1人だけでも縁側で待ってしまうんだよ。足踏みをしていてはいけないのかもしれないけど、誠一が戻ってくるんじゃないかと」と縁側に膝をつく父。 母はそんな夫の肩を抱き「一緒に足踏みしていましょう。また誠一が、縁側からひょっこり戻ってきて言うかもしれませんよ。"もう帰ってきてたよ。気付かなかったの?"って」 結婚した宮本と夕子にやがて子供ができる。 その子に「誠一」と名付けたいという2人。父母は最初戸惑うが、受け容れ、そして前に進むのだった。 ……とこんな感じのストーリーで、これは素晴らしかった! 私、年に10回ぐらい福岡に行く福岡Loverということもあって注目していたが、期待を軽く超えてくれた。 戦争で息子・誠一を失った夫婦の哀しみや受け容れられない心情、それに無事帰ってきてしまった仲間の罪悪感など伝えたい主題がコンパクトにまとまっており、かつ色々と想像できた。 セリフに込められる情報量も適切で、例えば、誠一は戦争で亡くなったのは分かるけど、その戦争が具体的に何の戦争なのかは最後まで分からない。 最初、太平洋戦争かな、と思ったが、佳代がスマホを持っているのでそれは違う。 舞台は現代なのか。となると、「もしかしたら、近い将来、私たちの身にも戦争が降りかかるかもしれない」という警鐘でもあるのかな、と思ったり。 舞台はただの縁側なのだが、静寂とノスタルジックなムードが何とも詩的で、福岡ということもあり宗像辺りの田舎を想像して観ていた。 特に素晴らしかったのが、お母さん役を演じていた村上真理さん。この人は本当に学生なのか!? 所作が昭和のお母さんといった感じで、福岡で言うならば「磯野フネ」みたいな感じだった。 お父さん役の牛島享さんも上手かったが、声が若かった。 誠一役の上平瀬賢さんは、妹のシーンでは幸せそうに頷いたり、両親が嘆くシーンでは悲しそうにしたりと、セリフがない間もいい味出していた。 印象に残ったのが、上述の両親が「一緒に足踏みしましょう」というシーン。 そして誠一の魂が、自分の姿や「ただいま」という声が周りには聞こえないことに苦しみ、「ただいまっ!」と言って、縁側をドンッ!と叩くシーン。これは切なかった。 誠一のセリフは「ただいま」だけなのだが、これがもう彼が伝えたい一番のことであり、話の骨子なわけで。 繰り返し発されるこの言葉が本当に切なかった。 ノスタルジックなムードからも、終演後は頭にEric Kazの"Cruel Wind"とか"If You're Lonely"が流れていた。 3組目:poco a poco スイートピー 誕生日の前日、就活帰りの夜。駅で終電を待つ私(海咲)は中学生に会った。 椅子に座る私の横に近づき、仕草を真似する彼女が聞いてくる。 「さて、私はどこの中学校でしょう?」 「私の誕生日はいつでしょう?ヒント、あと数時間後〜!」 私と同じ中学校。私と同じ誕生日。 やたら楽しそうな彼女を見て、私も楽しくなってきた。 「好きな子はいるの?」「どこが好きなの?」 彼女ははにかみながら言う。「いる!足が速いところ!」 そして彼女も聞いてくる。 「ねぇ、今何してるの?」「ねぇ、大学生の恋ってどんなん?」 私は今就活をしている。ひたすらエントリーシートを書いて……とりあえずどんな会社にも書きまくっている。 大学生の恋って、車でイルミネーションの綺麗なところに行って。そんなんだよ。 中学生と話すうちに思う。「いいなぁ、中学生って。楽しそうだし」 でも、私は大事な友達のことも、楽しかったできごとも忘れていた。 大事な思い出だったはずなのに、日々に追われ、過ぎ去った色んなことを忘れていた。 中学生がいなくなり、友人の奈央が来た。 「海咲、誕生日おめでとう!」 家に帰っていないので、駅まで迎えに来たらしい。 ハイテンションな彼女に、思ったことを言った。 「時間が経つとどんどん昔のことは忘れて行くんだよね。大事なことなのに」 すると海咲はあっけからんと言う。「いいんじゃない?私もよく忘れるよ」 色々話すうちに昔のことも段々思い出す2人。「なんだ、忘れてないじゃん」 そうだ。手繰る糸と、話せる友人がいれば思い出すことができる。だから不安を抱え過ぎないで、前に進もう。 今日は夜通し誕生日パーティーだ。 ……こんな話。 いやぁ、これは中学生役の佐口由希子さんと奈央訳の有馬菜穂さんのコメディエンヌぶりが素晴らしく、3作品中、最も「あっという間に終わった」感が強い作品だった。 社会に触れ、色々と気を使う場面も増え、学生との違いを一番感じる20歳前後。 「どこで働くの?」「受かった会社がやってる仕事」「何それ、つまんなそう」という会話は、明確な意思もなく学生生活を送ってしまいがちな多くの学生の現実でもあるわけで。 そういう意味では、劇団未踏座の「何がために生きるのか?」というテーマにも通じていて、加えて演じ手の年齢ともシンクロしていた。 それを軽妙にテンポよく演じきったのは見事。しかも、観劇後にポジティブで爽やかな余韻すら残すという。 良い舞台だった。 というわけで、3組観終わって、さぁ採点。 やはり差をつけなくてはいけないと思い悩んだのが、「あしぶみ」と「スイートピー」。 恐らく、1年後、今日を振り返って覚えているのは「あしぶみ」で印象に残った上述の2場面。 もしこれが、一般の演劇祭だったら迷わず「あしぶみ」に5点を入れている。 ただ、これは学生祭。 テーマや登場人物を考えると、「あしぶみ」は学生である必然性は薄い。 「スイートピー」が持つ、20歳前後ならではの不安や、まぁでも頑張ろう!という前向きさの方が、学生らしい題材だなと感じた。 どちらかといえば勢いとユーモアに寄った劇団未踏座、シリアスに寄ったコックピットに対し、シリアスとユーモアのバランスが良かったのも好印象。 それとセリフをつっかえた時、自然なセリフに見せるフォローが、poco a pocoが一番上手かった。 この辺を総合して、「スイートピー」に5点、そして「あしぶみ」に4点、【Nihon】〜名もなき銀色の国〜に3点を入れた。 一方、個人賞は迷うことがなかった。村上真理さんで決定。 この人、順調に経験を積んで、良い出会いがあれば、間違いなくプロの女優さんとして成功すると思う。 |
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