エッセイ5 アンネの日記 バレエ団でも書いたように、私の通っていた中学・高校には、ホールがあり、そこで映画や演劇、音楽会などが開かれていた。 今回も、ホールでのお話。 "アンネの日記"という芝居がある。 第2次世界大戦下で、ナチスの手から逃れるために屋根裏部屋に隠れていたアンネが書いた日記を元にしたシリアスかつ悲しいお話だ。 中学1年のある日、この"アンネの日記"をホールで(強制)観劇することになった。 私は、1年1組だったので、最前列、しかも、中央という最も近い位置で観劇することになった。 さて、劇が始まる。 最初は多少ざわついていた観客も、劇が進むと共に、静かになる。 寝ているのである。 しかし、最前列ならいくらなんでも・・・みんな寝てるよ!! しかも、スヤスヤ気持ち良さそうに!! 前を向けば熱演する役者、横を向けば眠る生徒、後ろを・・・いやいや、上演中に後ろを振り向くような失礼な行為をする勇気は私には無い。 と、そんなことを考えていた時(←こんなことを考えていたぐらいだから、私もそこまで集中して観ていたわけでは無かったのだ)、急に女子生徒からキャ〜という声が起こった。 ??何事?? 前を向くと、アンネが恋人とキスをするシーンだ。 女子は凄い。こういうシーンになると自然に起きるように出来ているらしい。 女子生徒があまりにもキャ〜キャ〜と騒いだため、舞台上のアンネと恋人は、結局、キスを躊躇ってしまい、そのシーンはウヤムヤに終わってしまった。 この騒ぎで起きたのは、男子も同様。 体験した人は分かると思うのだが、観劇中に1度寝て、起きた時は、すっきり爽快とし、目は冴えているものだ。 男子生徒もこれで、目はぱっちり、最後のシーンまで、起きていた。・・・そう、あの最後のシーンまで。 この時の舞台"アンネの日記"の最後のシーンは、アンネの一家が、ナチスに見つかり、横に並んで青い照明に照らされるというものだった。 本当に悲しいシーンなのだ。 その瞬間!! 「アダムス・ファミリー!!」 後ろの席から、男子生徒の野次が飛んだ。 爆笑する場内・・・ おい・・アダムス・ファミリーかよ!! ・・くそっ、面白いじゃないか!! いかん・・この場面で笑ってはいけない・・しかも最前列に座っているから、舞台から丸見えじゃないか・・・この場面では・・・うっ限界だ。 いや・・私も笑ってしまいましたよ。 だって、青い照明で、本当にアダムス・ファミリーみたいなんだもん(笑) しかし、やってる方はたまったもんじゃないだろうなァ・・・(^^;) 一生懸命シリアスな芝居して、最後の最後、泣くべきクライマックスで「アダムス・ファミリー」とか言って笑われた日にゃあ、アンタ、やってられませんぜ。 そして、最後の場面、横に並んだアンネの一家の眉間が震えていたのを私は見逃さなかった。 ただ、それが、「ナチスに見つかったという恐怖のあまり引きつる」上手い演技なのか「この学生ども・・ふざけんなよ・・」という怒りの現れなのかは、今だに謎である。 ただ、後日唯一分かったことがある。 あの日、"アンネの日記"を上演した劇団は、2度と私の中学、高校には来なかったらしい。┐( ^-^ `;)┌ |
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