Mr.Win's Room

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めんたいぴりり 博多座版〜未来永劫編〜

 

2019年3月30日(土)午後4時00分開演
会場:博多座
脚本、演出:東憲司

海野俊之:博多華丸
海野千代子:酒井美紀
花島幹江=大空ゆうひ
中村伊佐美:川原和久
春日沙織:藤吉久美子
丸尾老人:小松政夫
スケトウダラ:博多大吉


【ストーリー】
病院で死の直前を迎えた老人・俊之は、ベッドの上で千代子と昔を懐かしんでいた。

ふくのやで明太子の味を追求したこと。
戦時中、共に戦い亡くなっていった仲間たちとの思い出。
戦争で息子を失い、それでも息子の帰りを待ち続けていた春日さん。
その春日さんによって、戦争で失った心を立て直した上官・中村さん。

息子たちの学校には歌が上手い花島先生がいたな。ケ・セラ・セラを歌っていた。
近所のでんさんは、中洲を盛り上げるためカラオケ大会をやってたな。
元博多人形師の丸尾さんは、明太子作りを応援してくれていた。
そしてみんなが応援していた西鉄ライオンズと神様・仏様・稲尾様。

明太子が完成するまでを、戦後復興していく博多とともに描き、大反響をよび、平成26年度日本民間放送連盟賞番組部門テレビドラマ番組優秀賞を受賞したホームドラマの、舞台版、映画版を経た博多座再演。

【客入り】
20代から60代、それ以上まで幅広い。満杯。

【感想】
前回舞台版映画版を経て、いよいよ博多座での再演。初登場のキャラクターも加わるとのことで、大変楽しみだった。

博多座には、こんな風にふくのやが再現されており、



入口には、↓こんな具合に出演陣の幟が。



観終えてまず感じたのは、戦争を意識させる場面が増えたこと。
貧しさに戦争の傷跡を感じる時、明太子で人の命・苦しみを救えなかったことに苦悩する時、俊之の頭には、亡くなった戦友たちの姿が浮かぶ。
彼らと食料のない戦地で、ありもしない明太子を食べた気分になって空腹を満たそうとした瞬間が。

太平洋戦争で戦地から帰還した方の回想に「生き残ってしまった」という言葉をよく聞く。
とても印象的な言葉で、俊之にもそういった意識があったのかな、美味しい明太子を作って生きている人々を幸せにすることに贖罪のような意識もあったのかな、と。

以前、能古博物館で満州からの引き揚げ特集を観たが、引き揚げてきた人々は、今では想像できないぐらい大変な思いをされており。千代子の「あの戦争を生き抜いたんだから!」というセリフに感じられる強さの裏側には、そうした大変な惨状の中で、不幸にも帰って来れなかった人々への弔いの念も感じた。

勿論、暗いシーンばかりではなく、そうした悲しみを抱えながらも必死に支えあって生きる姿には何度か涙腺が。
今回、泣けるシーン多かった。終演後に華丸さんが「サウナのように目から汗が出たんじゃないでしょうか」というコメントがズバリだった。

一方で大吉先生(スケトウダラ)が出ると必ず笑いが。
開演前アナウンスで「大吉さんが演じるスケトウダラがハローキティとコラボ」と流れた時すら会場には温かい失笑が (笑)
今回、出番が少なめだったのはちと残念。

しかしその分、見どころとなったのが小松の親分。
往年のギャグを織り交ぜての軽妙なセリフ回しは芸術的で、登場シーンは全部、小松さんオンステージといった感が。
これを観るだけでも来た価値があった。
パンフレットには中洲界隈で生まれ育った小松さんが昭和30年代の博多を語るページも。
那珂川での釣りや川岸の出店、花火大会、チンチン電車。いいな、頭の中で井上陽水さんの「少年時代」が流れそう(陽水さんも福岡が生んだアーティスト!)

映画版では健一のクラスメート・英子に焦点が当たっていたが、今作では英子が登場しない代わりに大空ゆうひさん演じる花島先生がキーパーソンに。
元々歌手を志望していた役柄で、彼女が歌う「ケ・セラ・セラ」は博多っ子の「どうにかなるさ」の精神を映しているようでもあり。
そのケ・セラ・セラの歌い方とお辞儀の美しさが、いかにも宝塚ご出身と感じられる大空さん。良かった。

終演後は、初日ならではの出演者の一言コメント、ふくや社長から華丸さん、酒井美紀さんへの花束贈呈など。
華丸さん「出演者が揃って稽古できたのは数日しかなく、あとは代役の人を相手に稽古していた」、川原さん「八幡出身だけど、北九州の舞台を飛び越えて博多座に立つことになった」といったコメントが聞けた。

ふくのやのメンバーも含めて、出演者それぞれの見せ場があり、それらがどれも魅力的だった良い舞台。
美しいラストシーンまで、博多の良さ、懐かしい昭和、ふくのやの温かさに浸った一時だった。

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(制作:木戸涼)

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