Mr.Win's Room

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Bob Dylan in Japan 2016



(東京エレクトロンホール宮城のエントランスにて)

-Set List-
1. Things Have Changed
2. She Belongs To Me
3. Beyond Here Lies Nothin'
4. What'll I Do
5. Duquesne Whistle
6. Melancholy Mood
7. Pay In Blood
8. I'm A Fool To Want You
9. That Old Black Magic (初日のみThat Lucky Old Sun)
10. Tangled Up In Blue
(Intermission)
11. High Water (For Charley Patton)
12. Why Try To Change Me Now
13. Early Roman Kings
14. The Night We Called It A Day
15. Spirit On The Water
16. Scarlet Town
17. All Or Nothing At All
18. Long And Wasted Years
19. Autumn Leaves

(encore)
20. Blowin' In The Wind
21. Love Sick

(感想)
2014年からわずか2年という短いスパンで行われた2016年の来日公演。
まさかこんなに早く再来日するとは思っていなかったし、ブライアン・ウィルソン、エリック・クラプトンなどが同時期に来るため、「日本のプロモーターももう少し頑張って日程調整してくれ!」と思いましたが、来るからには行かなければ!

ここ数年のボブはセットリストを殆ど変えなくなっており、また"Shadows In The Night"発売後は、半分程度のセットリストがアメリカン・スタンダードソングのカヴァー。
さすがに全公演行く必要はないかな……と思う一方で、来るからには行きたい。セトリもいきなり全部変わるとか有り得るし、とも思ってしまうのがファン心理。

加えてボブも74歳。あと1回は来日すると思いますが、2年という短いスパンで来たのは最後の来日になることを見越してかもしれない。

そんなわけで以下の9公演に行ってきました。
東京初日・仙台・大阪2公演・後楽園Divercity・渋谷3公演・横浜。
厳密には、後半の渋谷3公演中、1日、仕事で前半が観れなかったので、8.5公演というのが正しいでしょうか。

結論としては、9公演ともセットリストは基本同じ(唯一違ったのは初日の1曲のみ)。
またカヴァー曲以外は2年前も演奏された曲ばかりですが、アレンジは若干の変更がありました。
その辺の比較も含め、演奏された各曲について1つずつ振り返ります。

1. Things Have Changed
オープニングがスチュのイントロから入るのは2年前と同様ですが、演奏されるメロディーが変わっていました。
リズミカルで、間奏でブレイクしていた箇所も、流れを切らずにスピード感を持続するアレンジに。
2年前はボブが横を向いて首をひょこひょこさせるダンスがコミカルでしたが、今回はやらず。というか、今回は全編通じてダンスが殆どなくなってしまったのは残念。やっぱり疲れたんでしょうか。それとも飽きただけ?

2. She Belongs To Me
2年前と同様のアレンジ。個人的にこの曲は今のバージョンが一番好きなので、2年ぶりに聴けて良かった!

3. Beyond Here Lies Nothin'
2年前と同様のアレンジですが、ボブのピアノ、チャーリーのギターアレンジが若干変化。
そこまで好きな曲ではなかったのですが、繰り返し同じフレーズを弾くボブが良い感じでした。
演奏ラストでボブが立ち上がり、ステージが暗くなっている間にピアノ後ろにある水を飲むのが定番。

4. What'll I Do
今ツアーのテーマと言っても良いアメリカン・スタンダードの伝導。
まずは、この曲でした。
ボブはスティール・ギターの音色が大好きなんだろうな。こういったスローな曲ではイントロからスティールギターが活躍するのは2001年も今も同じ。

5. Duquesne Whistle
2年前と違い、オリジナルverのイントロを再現したアレンジ。
個人的に、今回行った9公演では仙台がダントツに盛り上がったと思うのですが、特にこの曲は間違いなく仙台がベストです。
ピアノソロで若干崩し気味になるところも含め、うまくハマっていたし、ヴォーカルも力がありました。

6. Melancholy Mood
日本で先行販売された"Melancholy Mood"。
それもあってか、どの日も反応は良かったです。哀愁あるメロディーの曲なので、タイトル通りメランコリーな気分に(笑)
来日公演後半では、すっかり好きな曲になっていたので、聴くのが楽しみでした。

7. Pay In Blood
これはもう定番ですね。大好きな1曲ですが、今回はよりタイトな演奏になっており、ボブのヴォーカルも鋭かったです。
イメージ的には2010年の"Cold Ironed Bound"。妖美な感じもあり、恰好良かった!

8. I'm A Fool To Want You
これなんか完全に酒を飲みながら聴きたい1曲ですね。ビリー・ホリディやエルヴィス・コステロもカヴァーしている1曲です。
"Pay In Blood"の次ということもあり、一層重くスローで、ウッドベースの音が心地よかったです。

9. That Old Black Magic (初日のみThat Lucky Old Sun)
初日だけ"That Lucky Old Sun"。同時期にブライアンが来日しているので、ワクワクを掻き立てる選曲でした。(ブライアンはこの曲にインスパイアされて組曲を作っています)
ただ曲としては軽快な"That Old Black Magic"の方が好きなので、これが固定になったのは良かった。
この曲、ブレークでのドラム、いいですね。

10. Tangled Up In Blue
誰もが盛り上がる"Tangled Up In Blue"。
まぁ、心の中ではみんな、以前みたいに昔の自作曲沢山聴きたい!と思ってるわけで。盲目的な信者以外はそうだと思います。
"Tangled Up In Blue"はそういう意味では、ここ数年はいつもハイライト中のハイライト。
ボブ、また歌詞変えてましたね。上手く聞き取れなかったけど、この曲の格好良さは永遠に変わりません。

ラストでボブによる休憩時間のアナウンスがありますが、大阪初日までは「有難う!」だけ。2日目からは「皆さん、有難う!」になりました。
ボブの日本語というと、86年の「ドウモー」、2010年の「George wants to say 行きましょう」、そして2014年の「友達!有難う!」などがありますが、これでまた1フレーズ増えたな。

11. High Water (For Charley Patton)
休憩明け、二部は今回もこの曲。正直、そこまで好きな曲ではないので、そろそろ飽きたかな。
まぁ、二部の始まりということでテンション高いため、どの公演もそれなりに盛り上がった気分で聴けましたが、そろそろ変えてほしい1曲です。

12. Why Try To Change Me Now
サイ・コールマンとジョゼフ・マッカーシーが書いた曲。
スローに愛を歌う曲。軽快な"High Water"とブルーズ"Early Roman Kings"の間という丁度良い位置にあるので、毎回気分よく聴いてました。
シナトラは軽やかな声でヴィブラート効かせながらストリングス・アレンジで歌ってたりするのでロマンチックなムードですが、ボブの場合はもっと老熟した貫禄のあるムードに。

13. Early Roman Kings
これも定番となった重厚なブルーズで、2年前は間奏含め歓声が何度も上がった1曲。
好きな1曲なので今回も聴けて嬉しい一方、やはりこの曲はライヴハウス向きだな、とも思いました。
オリジナルverに入っているアコーディオンの音色も好きなので、そろそろ、そういったアレンジに変えてくれても良いかな。
あと、スチュが最初から最後までマラカスを振っている姿が微笑ましかった(笑)

14. The Night We Call It A Day
ピアノからセンターステージに戻っての歌唱。
前後の2曲が好きなので、間にある曲...という印象になってしまうのですがタイトルがいいですよね。
ボブの枯れたヴォーカルが合っている曲。

15. Spirit On The Water
2010年以降は来日で必ず登場する定番曲になりましたね。
新しいスタンダードと呼んで差し支えないと思うし、夜の街灯のような照明とマッチした非常に洒落て、かつ優しいサウンドの曲だと思います。
今回は、ピアノ演奏を少しずつ崩して違う形にしようと試みている姿が印象的でした。
"Good Time"のところで"Yeah!"と叫ぶのはもはやお約束ですね。
あと1度は来日公演もあると思うし、無かったとしても観に行くと思いますが、「あぁ、将来何十年後に、この曲を歌っているボブの姿を思い出すんだろうな」みたいな感傷的な気分にもなりつつ聴いていました。

16. Scarlet Town
今回は2014年と異なり、曲間でWoo~~~と声が上がることもなく、この曲本来の妖しい感じを聴かせる演奏でした。
ただ、正直、この曲そこまで好きではないので、若干退屈だったのは否めません。

17. All Or Nothing At All
この曲はとにかく出だしが印象に残っていて。
スタンダードを歌う佇まいって意味では、一番、そんな佇まいで切々と歌っているボブがいいですね。

18. Long And Wasted Years
ずっと演奏されていて、新たなスタンダードの1つになりつつありますが、2年前ほどのポージングもなく、歓声も穏やか。
ライヴハウスの方が映える曲ですね。とは言うものの"Shake it up baby"の部分では歓声が。
これもまた定番の返しです。

19. Autumn Leaves
本編ラストを飾る1曲。"Stay With Me"が聴きたかった、という思いはあるのですが、この曲を渋く歌った後に、すぐに照明が暗くなり、メンバーが一旦ステージを去る、というのがまるでジャック・ブレルの"Amsterdum"のようでもあり。
中々に恰好良い演出。

20. Blowin' In The Wind
アンコール1曲目かつ、60年代初期の代表曲なので、歓声がひときわ大きくなるこの曲、過去観た中では、今回のアレンジが一番好きです。
出だしの"How many roads"の部分を、高い音から入ろうとしているのが今回の特徴でしょうか。
円熟に達したヴォーカル、ジャジーなアレンジは2014年以上に洗練されている印象すら受けました。

21. Love Sick
そして最後は"Love Sick"。個人的にはラスト向きの曲ではない気もするのですが、2001年の来日公演で登場して以来、いつもオリジナルに近い形で歌われていますね。
来日ラスト公演の横浜では、この曲が終わって、メンバーが横に並ぶ際、ボブが軽くお辞儀をしていたのはビックリ。大分丸くなったんでしょうか。


さて、仕事で本当に忙しい中での9公演でしたが。セットリストいじって欲しいなぁ、というのが本音。
"Like A Rolling Stone"も"Memphis Blues Again"も"Ring Them Bells"も聴きたいよ、というのが正直なところ。
確かにボブ経由で好きになったスタンダード・ソングはあるし、近作も素晴らしいのですが、過去に生み出されたマスターピース達もまた素晴らしいわけで。

最近のボブは(その偉大なキャリアや近作の成功も踏まえ)何をしても好意的に受け止めてもらえる状況を作ったように思います。今の固定セットリストも「絶えず進化する」とか「新たな挑戦をする」といった論評が多いし。

でもファンの望むものも考慮すればいいのになぁ、と思います。
ボブ自身は「ファンは新曲で喜んでいる」と考えているようですが、過去の曲やレア曲はもっと喜ばれるだろうし。
バランス良くやればいいのに。

まぁ今は、自身が愛し受け継いできた良きスタンダードを伝承するモードで、数年後にいよいよボブ自身が作り上げた楽曲を伝承するモードにチェンジ。キャリアの集大成的なセットリストで再び日替わり名曲群を演奏……なんて空想していますが、さてどうなるか。
いずれにせよ、ボブももう70代半ば。そのキャリアの最後までずっと追いかけたいと思います。

(2016/07/14)


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