吉例顔見世興行(午後の部) 2012年12月15日(土)午後4時15分開演 会場:京都・南座 第一 仮名手本忠臣蔵 第二 中村勘九郎襲名披露口上 第三 船弁慶 第四 関取千両幟 【概要】 吉例顔見世興行は向こう1年の一座の顔ぶれを披露する興行で、350年以上の歴史を有する「歌舞伎の国の正月」とも呼ばれる最大級のイベント。 今年は中村勘九郎の襲名披露も兼ねており、夜の部では、以下の4本が公演された。 第一 仮名手本忠臣蔵 歌舞伎三台名作の筆頭に推される義太夫狂言。 (五段目) 伯耆の大名塩冶判官高定は、足利尊氏の執事として権勢を奮う高師直に刃傷に及んだため切腹、家名は断絶した。 刃傷事件の際、腰元との逢瀬で主君の下に居合わせることができなかった早野勘平は猟師となり、おかるの親元に身を寄せ、狩人として日々を過ごしている。 いつも通り狩りに出かけた勘平は、雨宿りをしていると元朋輩の千崎弥五郎に出くわす。 元朋輩たちが「国家老であった大星由良之助を中心に、亡君の仇を報じようとしている」との噂を聞いていた勘平は仲間に加われるよう執り成してほしいと申し出る。 弥五郎が仇討ちのための資金調達をしていることを話すと、勘平は「費用調達をした上で仲間にしてほしい」と申し出る。 心中を察した弥五郎は執り成しを引き受け、互いにその場を立ち去る。 (同 二つ玉の場) 日も落ちた山崎街道を歩くのはおかるの父・与市兵衛。 娘のおかるから「身を売って勘平が武士に戻るための金を工面したい」と聞かされた与市兵衛は、おかるを勤め奉公させると決め、祇園町へ赴き、身売りの金百両のうち、半金の五十両を受け取り雨の中、掛稲の陰で一休みする。 そこへ稲むらから何者かが腕を伸ばして与市兵衛の財布を奪った上、与市兵衛を刺し殺してしまう。 犯人は、元・塩冶家家老の息子だが窃盗人に身を落としていた斧定九郎であった。 定九郎が財布の中身を確かめ立ち去ろうとすると、猪が駆けてくる。 そこへ火縄銃の銃声が轟き、やってきたのは猪を狙って鉄砲を撃った勘平であった。 自らが撃ったのは人であったと気づいた勘平は驚き介抱をするが、その胸元にある財布に気付く。 一旦躊躇するものの勘平はその財布を懐にしまい立ち去る。 (六段目) 翌日、与市兵衛の家を訪れているのは、判人の源六と一文字屋の女房・お才。 おかるの奉公が決まり、身請けの金の半金は既に与市兵衛が受け取って帰ったという源六の話を聞いたおかやは、夫が戻るまで待ってほしいと願うが、残りの五十両を渡した源六はおかるを駕籠に乗せて祇園町へ向かおうとする。 そこに、勘平が戻るが、おかやとおかるは事の次第を打ち明けられない。一方、勘平が紋服に着替えると、縞模様の財布が足元に落ちる。おかやが拾い上げるが、慌てて取り戻す勘平。 勘平が仔細を尋ねるとおかやはおかるの身売りの件を告白する。 勘平は感謝するが、源六やお才へ断りをいれる。 しかし仲介役の源六は引き下がらず、お才は与市兵衛との証文を取り出し、与市兵衛へ貸した財布と同じ布で作ったという財布を取り出す。 勘平が見比べると、お才の出した財布と懐の財布は、寸分違わぬ縞模様の財布であった。 さては昨夜撃ったのは与市兵衛であったか!と狼狽する勘平であったが、言い出すことができず与市兵衛と会ったと言い繕う。 「ならば与市兵衛も委細承知しているだろう」と再びおかるを急き立てる源六とお才。 勘平との別れを終え、涙ながらに祇園町に去るおかる。 見送ったおかやは勘平の様子に合点がいかず、与市兵衛とどこで会ったのか問い詰めるが言いよどむ勘平。 そこへ猟師仲間が与市兵衛の死骸を運び込み、取り乱すおかや。一方、驚く様子がない勘平。 疑念を深めたおかやは勘平の懐から財布を奪い、下手人と決め付け打ち据える。 自らも下手人と信じている勘平は何もできない。 そこへ弥五郎が不破数右衛門と共に訪れる。 勘平が逃げようとしていると思い縋り付くおかや。 おかやから「弥五郎に渡された五十両は舅殺しで得たものだ」と聞かされた弥五郎と数右衛門は呆れて立ち去ろうとするが、勘平は仇討ちに加担したい一心からの不始末だといい、切腹をする。 しかし、弥五郎と数右衛門が与市兵衛の死骸を改めると、致命傷が鉄砲ではなく刀傷であることが分かる。 さらに2人が来る途中、定九郎の死骸を見つけたことから、与市兵衛殺しの下手人は定九郎であり、勘平は舅の仇を討っていたことが判明する。 これにより、2人は勘平の差し出した金のうち、五十両を与市兵衛、勘平の菩提を弔うために使うよう返し、勘平が一味徒党の連判状に血判することを許す。 かくして仇討ち一味に加わることが叶った勘平は静かに息を引き取るのであった。 第二 中村勘九郎襲名披露口上 六代目・中村勘九郎襲名の披露口上 第三 船弁慶 海路で西国を目指し落ち延びる源義経一行。大物浦にやってきたところで弁慶が静御前は都に帰すよう進言。 静御前が門出を祝う舞を踊った後、舟出の時間になり、舟長が漕ぎ出すと、義経に滅ぼされた平知盛の怨霊が現れ襲いかかるが、弁慶が祈りを捧げると怨霊は海の中へと姿を消すのであった。 第四 関取千両幟 大阪は堀江の相撲部屋にほど近い稲川次郎吉の家へ連れ立ってやってきたのは場所入り前の両力士・稲川と鉄ヶ嶽陀多右衛門。 出迎えた稲川の妻・おとわが食事の用意をしに座を立つと、使いがやってくる。 実は稲川の贔屓である大店の若旦那・礼三郎は、新町の錦木太夫と深い仲で、彼女の身請け金のうち二百両を稲川が工面することになっていた。 使いによると、錦木を身請けしたいという別の客の申し出があり、今日中に二百両を支払わなければ話を進めてしまうとのこと。 戸惑う稲川に「錦木の身請け話を進めているのは自分だ」と告げる鉄ヶ嶽。 鉄ヶ嶽の贔屓に素行不良の九平太という侍がおり、稲川がつい先日懲らしめたばかり。 それを恨みに思った九平太が鉄ヶ嶽に頼み、錦木を身請けしようとしているのである。 身請けされては面目が立たない稲川は思いとどまるよう鉄ヶ嶽に懇願する。 九平太の分の意趣返しとばかりに稲川を痛打する鉄ヶ嶽。 そこへ取り組みの知らせが入る。なんと今日の取り組みでは稲川と鉄ヶ嶽の一番が予定されている。 大阪で人気の両力士。しかも初の大阪での土俵ということで負けられない一戦だが、鉄ヶ嶽は稲川にわざと負けるよう示して立ち去る。 後に残った稲川が途方に暮れているところ、おとわが姿を現す。 今日は場所入りしないようにと勧めるおとわ。彼女は先ほどの様子を伺っており、稲川がわざと負けるだろうと察したのだった。 「父親に金を工面してもらおう」というおとわの申し出を断り相撲小屋へと向かう稲川。 その様子を見送ったおとわは思いつめた様子で出掛けていく。 取り組みが終わり、客たちが興奮冷めやらぬといった形で大一番について話している。 鉄ヶ嶽が稲川を土俵際に追い詰めたところ「さる御贔屓様より御祝儀として金子二百両が稲川関にくださる」と声がし、これを聞いた稲川が盛り返し、鉄ヶ嶽を投げ飛ばしたという。 そこで北野屋七兵衛がやってきて稲川を呼び出す。 二百両の御祝儀は七兵衛からのもので、それはおとわが夫の窮地を救おうと自らの身を売って工面したものであった。 やがて七兵衛に伴われて姿を現したおとわは夫に別れを告げて去っていく。 そんなおとわを感謝の心をこめて涙ながらに見送る稲川であった。 【客入り】 中高年が多いが、若年層もチラホラ。もちろん満員。 【感想】 2009年以来の顔見世興行。 今回は勘九郎襲名披露口上があるということと、前回好きになった演目"船弁慶"目当てで行った。 第一 仮名手本忠臣蔵 「勘違いが元で命を失ってしまう」部分だけ切り取ると虚しさを感じるが、「武士である」ことに命をかける部分を切り取ると、名誉が保てて良かったねという喜劇にもなり。 しかし、「主君の大事」、「仇討ち決行」のいずれにも出くわせぬまま亡くなってしまうことに変わりはなく、勘平への哀れさ、同時に何も知らないまま祇園町にいるおかるの哀れさも感じる話だった。 第二 中村勘九郎襲名披露口上 市川左團次さんが「勘九郎さんが、何度私を訪ねてもいないから嫌われてしまったと思う」と冗談交じりに言えば、市川団十郎さんは、父・中村勘三郎さんとの思い出話。 先輩方からの祝辞は、いずれも「本公演直前に亡くなった父・勘三郎さんへの想い」と「勘九郎さんを弟共々引き立ててほしい」という2点だった。 "勘九郎"の名を大きくした父を偲ぶ趣が強かった今回の襲名披露口上。その名を継ぐご本人の口上後は大きな拍手だった。 第三 船弁慶 秀山祭三月大歌舞伎では又五郎二よる静・知盛だったが、今回は勘九郎。 又五郎よりも女性的だったが、以前、助六で見た玉三郎の揚巻には敵わず。 しかし、後半の知盛の大立ち回りは圧巻! この大立ち回りシーンが見たくて来たといっても過言ではなく、秀山祭三月大歌舞伎で見えなかったラスト花道での様子もしっかり見れて大満足。 花道・登場口でグルグルと回るシーンはダイナミックで楽しかった。これを観れただけでも来た価値がある。 第四 関取千両幟 夫のために自らの身を売る妻と、それに感謝する夫というのが感情移入出来ず。また、おとわ役の孝太郎は色気がなく気持ち悪かった。あれに二百両出すって時点で無いだろ、と。 後半、てっきり実際の取り組み場面が演じられると思っていたので、酔客が再現するだけという展開も拍子抜けだった。 ともあれ数年ぶりに"顔見世興行で年の瀬を感じられた"ので満足。 |
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