Mr.Win's Room

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秀山祭三月大歌舞伎

(雑記)
誕生日だった3/18に、南座で秀山祭三月大歌舞伎を観てきました。
秀山祭は初代・中村吉右衛門の顕彰と芸の継承を目的とした興行で京都での開催は初めて。
それだけに大入りで、1階に設けられた直筆の書画や写真などの初代吉右衛門・展示コーナーも賑わっていました。
加えて今回は、中村歌昇改め三代目中村又五郎、中村種太郎改め四代目中村歌昇襲名披露公演でもあったので、こちらも盛況ファクターの1つ。

初代が得意とした演目の中から、今回、午後の部で上演されたのは"俊寛"と"船弁慶"。
まず"俊寛"。

平家に反逆した罪で流刑に処された俊寛僧都。
遠島での生活に気力を失い、その日の食事にも事欠き、唯一の慰みは共に配流された成経、康頼と会うことだけの生活。
ある日、俊寛の元に訪れた成経、康頼。成経は千鳥という海女を娶ることを報告し、喜んだ3人は、ささやかながらも夫婦の盃事を行う。
盃を交わす中、水平線の彼方から近づいてくるのは都からの赦免の使者。
都に帰りたい一心で生き延びてきた3人は船を見て狂喜する。やがて船が着き、姿を現したのは平清盛の使者・瀬尾。
彼は赦免状を読みあげるがそこに俊寛の名はない。俊寛への憎悪深い清盛は、彼だけ赦免しなかったのだ。
何度も書状を改めるが自身の名がないことに絶望し、不条理を嘆く俊寛。

そこに現れたのが清盛の長男・重盛の使者・基康。
温厚・誠実な重盛は俊寛を憐れみ、備前国まで戻ることを許したのだ。
喜んで乗船しようとする面々。ところが瀬尾は千鳥が乗るのを拒み、成経は千鳥と共に島に残ると言い出す。
俊寛たちも4人ともに、と言い出し、基康もとりなすが、瀬尾は拒否する。さらに俊寛の妻・東屋の首を清盛の命により打ったことを明かし、俊寛たち3人を船内に押し込む。
浜辺に残された千鳥に基康は都に戻り次第、迎えを遣わすと慰めるが、千鳥は「鬼界ヶ島という名のこの島には鬼はおらず、都にこそ鬼が住んでいると言った上で、岩に頭を打ちつけ死のうとする。そこに俊寛が現れ、「清盛に恨まれ、妻を殺された身なれば、もはや都に戻る希望を失ったので、自分が島に残る代わりに、千鳥を乗船させてほしい」と懇願する。
それすらも聞き入れない瀬尾。意を決した瞬間は瀬尾の刀を奪い刺す。
基康は瀬尾に助けを請われるが、その無慈悲な行動を見ていたため断る。その上で、「瀬尾を殺しては重盛の計らいを無にするだけでなく、乗船人数が足りなくなり関所を通る際に難儀になる」と、俊寛をなだめる。
しかし現世の望み絶えた俊寛は、「自分に代わって千鳥を乗せて欲しい」と言い、瀬尾を討ち果たす。

俊寛の心情を慮った基康は千鳥の乗船を許し、船は浜から離れる。
その様子を凝視し、何度も叫び、手を振り続ける俊寛。島に残る決意をしたものの思い切れずに、船の後を追って走る俊寛。
しかし、波は激しく、俊寛を島へと押し戻す。島に残された俊寛は万感の思いで船を見送るのだった。


物凄く暗い筋ですが、そこで演じられるのは人間の極限といえる精神部分。
反旗を翻した相手である平清盛のよこした遣いに平伏し、名がないことに衝撃を受け、すがり付く俊寛の姿。
基康の言葉に束の間喜ぶも、愛する妻が殺されていたことで気力を失い、去りゆく船を見て絶望する。
特に最後、舞台が波に浸食される中、取り残され叫ぶ俊寛は、印象的です。

平家の色である赤をまとった瀬尾はまるで天狗のようで、白色をまとう基康とのコントラストも印象的。
その赤色が最後殺されるシーンでは血の色のようにも思われました。

その後、休憩を挟んで襲名披露の口上。
幹部俳優による祝いの言葉です。襲名披露を見るのは初めてだったので、「こんな具合でやるんだな」というのが分かって良かった。
「播磨屋!」という掛声が沢山かかっていました。
……いや、この時に限らず演目の最中も、やたらと「播磨屋!」と叫ぶおじさんが目立ったのですが、あそこまで叫ぶのはどうなんだろ。
個人的には屋号を叫ぶのって、演劇やってる最中に演じている役者の名前を叫ぶのと同じ感じがして白けるんだけどなぁ。
何度も叫べば良いってもんじゃないと思います。

また休憩を挟んで2つ目の演目は"船弁慶"。

海路で西国を目指し落ち延びる源義経一行。大物浦にやってきたところで弁慶が静御前は都に帰すよう進言。
静御前が門出を祝う舞を踊った後、舟出の時間になり、舟長が漕ぎ出すと、義経に滅ぼされた平知盛の怨霊が現れ襲いかかるが、弁慶が祈りを捧げると怨霊は海の中へと姿を消すのであった。


前半は静御前の舞、そして後半は知盛の怨霊による大立ち回りと、静・動両方が登場する演目ですが、この二役を演じたのが歌昇改め又五郎さん。
静御前は、ちょっとゴツく動きがいかにも男で、正直、舞台に集中しきれない時間が続いたのですが、怨霊となった平知盛が登場して以降は別!勇壮で格好良かった。
知盛が恨み事を言い、大立ち回りするシーンは大興奮でした。特にラスト、笛と太鼓の音がまるでうねりのように知盛を追い払う場面は圧巻。
3階席だったので、花道を退場する最後の最後が見えなかったのが残念!
知盛の部分だけ抜粋して1時間でも良かった(笑)

2年前の顔見世興行以来の南座でしたが、やっぱり生は面白い。また行きたいと思います。

(2012/03/25)


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