Mr.Win's Room

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深呼吸する惑星

 

神奈川芸術ホールで第三舞台の再結成&解散公演「深呼吸する惑星」を観に行きました。
80年代から演劇界をけん引してきた劇団で……と語りたいところですが、私が知った時には既に10年間の休止期間に入っていたため生で観るのはこの解散公演が初めて。鴻上作品も「僕たちの好きだった革命」以来2回目です。
客入りはほぼ満員で、ロビーではパンフレットはじめ、タンブラーやシャツなど記念グッズが色々と販売されていました。
会場に入ると、ロキシー・ミュージックの"More Than This"が。そして会場が暗転して劇が始まるとYMOの"Behind the mask"が。
近未来的な出だしのあと、実際に劇が始まると葬式帰りの人々といった光景の舞台。
そして、その後舞台が替わると今度は地球ではない別の惑星の一室が……と、最初は一体、どういう筋なのか把握するのに手間取りましたが、20分程考えながらみて、ようやく分かりました。
SFもののこの劇、舞台は地球ではない別の惑星。他の星(敵)から侵略されそうなところを、地球人がバックについて守っているようです。
ところが、地球人にとってこの星の重要度は微妙なところ。戦略上の事情から、この惑星を敵に譲渡するかどうか検討中の様子。
その判断のポイントになったのが、地球人がこの惑星に到着してすぐにかかるという幻覚。この幻覚の原因さえ解明できれば、地球人は譲渡対象から外そうと考えているのです。幻覚解明のために派遣された女性公官は必死に謎を解明しようとします。
一方、この惑星の首相(原住民出身)は、地球から来訪する長官のセレモニーの準備に頭が一杯です。
彼は、原住民の踊りをセレモニーで披露したいようですがNGになり、ならば地球人の踊りと原住民の踊りを混ぜた友好の印になる踊りを踊ろうと考えます。
この首相の思惑に、かつて原住民たちが独立しようとした頃の戦没者が眠る墓を守っている管理人(この人は過去の記憶を失っています)、宇宙を股にかける結婚詐欺師、その詐欺師に引っかかる地球人の軍人、首相の秘書やその姉などが、それぞれの思惑から参加。一緒にダンスを踊ることになります。
セレモニー当日に到るまでに、墓守りが過去の記憶を取り戻したり、幻覚の原因が解明されたり……と色々波乱がありつつも、最終的には、惑星は譲渡対象から外れ、登場人物たちはそれぞれの未来へと向かいます。

話自体はSFですが、この惑星の立場が、アメリカの安保条約(という、本当に守ってくれるのかどうか分からない安全)の下で生活している日本とダブったり、そこで「解放せよ!独立せよ!」と叫んでいる狂人(⇒墓守が変装してやってます)が、その後の打開策を見出せず、大衆の支持を失っている様子も、結局、自衛のすべが見出せていない現状とリンクしたり。
幻覚の原因となった花粉について「ホットスポットに近づかなければいい」というのは嫌が上にも原発を意識するし、そういう部分では色々と考えさせられる作品でした。
パンフレットを読んだところ、第三舞台の魅力は「リズミカルなセリフの応酬」や、「そこに織り込まれたシリアス」、それに「分かりづらい筋書きをしっかり観客に考えさせること」という印象を受けたので、そういう意味では非常に第三舞台的な作品なんじゃないか、と思います(他作品を知らないので、あくまで憶測ですが)
墓守りが記憶を取り戻した時、自分の姿を見て「中年のおじさんになった」というシーンは、「第三舞台のメンバーも長い時間経って歳を取った」というメッセージにも聞こえたり。
個人的には「僕たちの好きだった革命」の方が面白かったですが、観て良かったです。

(2012/01/03)


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