Mr.Win's Room

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英国ロイヤルオペラ ファウスト

Royal Albert Hallをひとしきり見終わり、Hyde Park Cornerで地下鉄に乗り込む。Piccadilly CircusでBakerloo Lineに乗り換えてEmbankment駅へ。
テムズ川の丁度北側にあるこの駅から、北に数分歩けばROH(ロイヤルオペラハウス)がある。
もう少し詳しく書くと、Embankmentから少し上がって大通りのStrand Streetに出る。そこを右に曲がって交差点を左に曲がり坂を上ると、Lyceum Theatre。
Wellington Streetをさらに歩くとROH。
ワクワクして中に入るとそこには歴代の名歌手たちの写真が!











ROHの歴史を追えるようになっているこれらの写真を見ながら進むと受付がある。
インターネットのチケット予約メール、それに利用したクレジットカードを提示すると、チケットと(プログラムもネット購入している場合は)引き換え券をくれる。
開演までは時間があるのでロビーなど見物。写真、彫刻、それに着飾った人々(といってもごく普通のレベルで、気合いが入りすぎている人は逆に浮いていた)



開場時間。扉が開き、ホールへ。



ホールとロビーの間の休憩ルームの楽しいこと!


ソファ席でプログラムを読む人たち。


ゆかりある人々の像。


壁には沢山の公演写真。


ここにも!
でも一番魅了されたのが、過去の色んなステージのミニチュア!
一通り撮ってしまいました。


The Tsarina's Slippers(女帝の靴) (2009年11月20日上演)
チャイコフスキー作曲のオペラで、本人が自身の傑作とみなしていた作品。


Alice's Adventures in Wonderland (不思議の国のアリス) (2011年2月28日上演)
これは言うまでもないですね。不思議の国アリスです。


L'Heure espagnole (スペインの時) (2007年3月30日上演)
ラヴェル作曲。フランスの詩人レグランドによるストーリーをオペラ化したもの。浮気性な妻とその愛人によるドタバタ喜劇。



Coppelia (コッペリア)(1954年3月2日上演)
音楽はレオ・ドリーブ。動く人形を題材にしたバレエ作品。


これ、タイトルを控えられなかった。。なんの舞台だろう?

これだけでも十分に堪能できてしまう。
さぁ、遂に中へ!



おお〜〜!!綺麗!そして丸い!

上を見上げ……


思わず天井も見上げ……


少し視線を落としてみる。

う〜ん豪華絢爛。思ったより小さい。オペラハウスって勝手にもっと大きいイメージを持っていたのだけど、実際はとても小さい。これなら地声でもよく通りそう。
僕の席は、今日は丁度真ん中辺り。でも凄く近い。日本だったらこんな良い席取れないかも。
プログラムを見る。アンジェラ・ゲオルキューだ!ナタリー・デセイ、アンナ・ネトレプコと並んで私的トップ3のオペラ歌手。
さぁストーリーをもう一度おさらいしてみよう。(以下ネタばれあり)

ACT1
人生に疲れ、知識の探究に虚しさを感じ老ファウストは自殺しようと決意するが、夜明けの光と神の賛美歌で止められる。
ファウストは神を激しく拒絶し、悪魔を呼び出す。するとメフィスト・フェレスが登場。彼はファウストの持つ快楽的な欲求……哲学者の魂へと立ち返りたい欲求を満足させる。
悪魔の契約を前に土壇場になって躊躇するファウストだが、メフィストが映し出した美しく無垢な少女・マルガリータの姿に心奪われ、結局は契約を交わす。
彼女が欲しい。それがファウストの望み。

ACT2
街は祝い事の真っ最中。その中に、友人たちに、妹マルガリータの世話を頼むヴァレンティンがいる。彼はこれから戦争に赴くのだ。
頼まれた中には、マルガリータに恋するシーベルもいた。
そんな中、メフィストが冒涜的な歌を歌い、マルガリータへのあて付けをいい、祝いの場を静まらせる。
怒ったヴァレンティンは妹を守らんとメフィストに向かうが、彼の剣は空を切っただけだった。
人々は慌てて散会する。
その後、メフィストはファウストと合流。ファウストはマルガリータの元に行き、気を引こうとするがマルガリータに拒絶される。

ACT3
マルガリータに恋するシーベルは彼女のもとに花束を置いていく。続いてファウストは、メフィストが彼女のもとに何かを置く間、彼女の家で美点を褒めたたえる。
メフィストが残したのは箱一杯の宝石だった。
マルガリータが現れ、ぼんやりと置かれたプレゼントを眺めるが、宝石箱を発見し興奮。宝石を試してみる。
そこに来たのはマルガリータの隣人、マーサ。「彼女への贈り物は思慕の念を持つ者からに違いない」と考えているようだ。
やがてファウストとメフィストが登場。メフィストは、ファウストがマルガリータを口説けるよう、マーサを誘い遠ざける。

ACT4
5ヵ月後、マルガリータはファウストに見捨てられ、彼との子を背負い、教会にいた。
彼女の祈りは悪魔たちによって遮られる。彼女の救済への望みを否定するメフィストの呪文により、マルガリータは失神してしまう。
その頃、兵士たちが戦争から帰還する。ヴァレンティンもその中の一人であった。
彼はシーベルに妹の様子を尋ねるが、シーベルは言い逃れようとする。業を煮やしたヴァレンティンは、自身の目で確かめんとばかりに、マルガリータの家へと急行する。
そこにメフィストとファウストが現れ、悪魔は皮肉のセレナーデをマルガリータへと歌う。
家から出てきたヴァレンティンは、誰が自分の妹に、このような辱めを与えたのかを知りたいようだ。そして事情を察したヴァレンティンはファウストとの決闘へ。
ファウストはヴァレンティンに致命傷を負わせる。ヴァレンティンは、マルガリータの不道徳を恥じ、キリストの慈悲を受けるに値しない、彼女を永遠に罵ると呻きながら絶命する。

ACT5
Walpurgis Nightの日となった。悪魔の舞踏が行われている。ファウストの目の前には、子供を殺した罪で刑務所に入れられ、処刑を待つマルガリータの姿が映し出される。
ファウストは彼女の元に行きたいと願い、メフィストに願い出る。共に地獄に行き、ファウストとマルガリータは2人で過ごした愛の日々を思い出す。ファウストは「一緒に逃げよう」と促すが、彼女は抵抗し、神の加護を求める。マルガリータの懇願に対し、答えが提示される。
彼女の魂は天国へと救済されたのだった。


……会場が暗くなる。今日の指揮はEvelino Pidoだ。オーケストラピッドに登場し一礼。さぁいよいよ幕が上がる!
音いい!そしてステージ、奥行きあるなぁ。
ACT1。老ファウストが出てきて恨み事を言ってる。英語の字幕が分かりやすい。
悪魔の契約によって若返ったファウストのハイテンションぶりもインパクトがある!

ACT2。広場に舞台が移って、勇壮なヴァレンティンだ。メフィストとヴァレンティンのやり合いが終わり、舞台は酒場のダンス・シーンへ。
これは華やか。演出もなんとなく現代っぽい感じも漂うのはマノンの時と同じだ。
そこにマルガリータ登場!アンジェラ・ゲオルキュー!やっぱりスタイルいいな〜。もう40代半ばのはずなのに舞台の上だと「何だこの若々しさは!」とビックリするぐらい若く見える。
ファウストを軽く拒絶する歌も上手い。

ACT3。最大のハイライト。ファウストがマルガリータに求愛し、最終的に二人が愛し合うシーン。目をつぶって場面を再現してみよう。

初めてマルガリータを誘うも拒絶されたファウスト。大丈夫だ、私に案があるとなぐさめるメフィスト。
ACT3では、まずシーベルがマルガリータの家の前に花を持っていく。まるで女性のような声。線の細さは分かるけれど、シーベルはもう少し男っぽい声の方が良かったかも。
一方、メフィストは宝箱を用意。
マルガリータは花を見て苦笑するが、宝石を見て喜ぶ。
そこにメフィストがやって来て、マルガリータの夫が亡くなった。そして宝石箱の送り主はファウストだと伝える。(メフィストはマーサに惚れられ嫌がるというコメディタッチのシーンも)
マルガリータは、再び目の前に現れたファウストに惹かれるも天涯孤独になった身の上や貧しい自分を思い、彼を拒もうとする。
やがて彼の愛の歌に打たれ、そして宝石への欲もあり、ついには愛の歌を共に歌うが、結局ファウストに帰って欲しいというマルガリータ。
だが、ファウストは「明日の晩、今日と同じように愛を歌おう」と誘う。

部屋に戻るマルガリータ。それを見送るファウスト。するとメフィストがやって来て言う。

ドクター。学校に入りなおした方が良いんじゃないか?彼女は部屋に入り、窓を開ける……。

窓を開けたマルガリータはこう歌う。

彼は私を愛している。この自然も共鳴して言う。彼は私を愛しているって。まるで天国にいる気分。

メフィストのかけた梯子を登り、マルガリータの元へ駆け寄ったファウストが、マルガリータを後ろから抱き締める。
二人が愛を確かめる中、宝石箱を手に取り大笑するメフィスト……。まるで、「人間は結局、欲望に勝てないのだ」と言わんばかりでインパクト大。そして非常に暗示的だ。

この一連の流れは、本当に魅入った。
劇中で歌が一番綺麗というのもあるし、マルガリータの心情が徐々に誘惑に負けていくという心理戦チックな場面だからというのもある。
窓から歌うシーンは、演じているゲオルキューも気持ち良いだろうなぁ。

ACT3が終わり休憩時間に。トイレが混むのは日本もイギリスも同じ光景。ネットでチケットを購入した時、インターバルタイムでのシャンパンも予約できたけど、僕はパス。
ここまでの感想をメモってました。隣のおじさんに話しかけられたので、軽く話をする。

どこから来たの?

日本です。

じゃあ、去年のROHの日本公演には行った?

行ったよ。マスネのマノンね。アンナ・ネトレプコが出演してた。

Good!椿姫の方は?

スケジュールが合わなくて行けなかったんだけど。そういえば、当初のスケジュールではゲオルキューがヴィオレッタの予定だったね。今日観れて嬉しいよ。


……とまぁ、そうこうしているうちに、あっという間に休憩終了。
後半。マルガリータを捨てたファウスト。祈りを捧げるも悪魔に負けてしまうマルガリータ。
ACT3ではあれだけ愛し合っていたのに、いきなり休憩明けでマルガリータが捨てられているというのは唐突な展開ではあるけれど、オペラではよくあること。
陰鬱なトーンの教会シーンを経てのヴァレンティン登場⇒ファウストとの対決。
その過程であった、ヴァレンティンがシーベルにマルガリータの様子を尋ねるシーンは、シーベルが女々しすぎ。
今回の演者はいずれも登場人物の性格を分かりやすいぐらいに強調していて。たとえばヴァレンティンなら勇壮(でも結構短気)、メフィストなら腹で何か企んでいる油断ならない感がよく出ていたのだけど、シーベルは弱弱しい感じが強調されすぎてまるで女のようになっていたのはやり過ぎな気が。

そんなACT4も終わり、ACT5は契約通り悪魔の僕となったファウストが眺める悪魔の舞踏シーンからスタート。
中世的な衣装に変わったメフィスト。ファウストの前で繰り広げられる悪魔たちの享楽のダンスシーンは、後半のハイライトの1つ。
オペラでありながら、バレエの要素も楽しめるのが嬉しい。
そして再会するファウストとマルガリータ。劇の緊張感も最後の高まりを迎え、マルガリータの祈りに対し、神の答えが提示されるまでが後半最大のハイライト。
最後に"救済"の提示が出て終幕という終わり方もインパクト大でした。
初のROHでこれだけドラマチックな劇が観れて嬉しい!忘れられない体験になりました。

(2011/09/18)



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