四谷怪談 2001年12月19日(水)午後1時30分開演 シアターコクーン 作:鶴屋南北 演出:蜷川幸雄 音楽:東京スカパラダイスオーケストラ 美術:金井勇一郎 衣装:小峰リリー 民谷伊右衛門:竹中直人 お岩:藤真利子 お袖:広末涼子 佐藤與茂七:高嶋政伸 直助:村上淳 宅悦:田口浩正 お梅:持田真樹 伊藤喜兵衛:三谷昇 【ストーリー】 序幕 時は「忠臣蔵」の時代。 赤穂浪人の民谷伊右衛門は、同じ赤穂浪人、四谷左門の娘・お岩と夫婦だったが、伊右衛門が抗菌に手をつけていたことを知った四谷左門は、お岩を実家に連れ戻してしまっていた。 お岩の妹・お袖は、行方の分からない許婚・與茂七をひたすら待ちわびながら、家計を助けるために昼間は楊枝屋で、夜はひそかに私娼窟で働いていた。 そんなお袖に、薬売りの直助がしつこく言い寄っている。 一方、吉良家の家臣・伊藤喜兵衛の孫娘お梅は、隣に住む伊右衛門に横恋慕していた。 宅悦住居の場 目明きの按摩の宅悦が営む私娼窟。 待ちかまえていた直助から逃れようとしたお袖は、偶然入ってきた與茂七と鉢合わせ、久々の再会を果たす。 裏田圃の場 公金横領を知られた伊右衛門は四谷左門を殺し、その傍らで直助も、邪魔な與茂七と思い込み、殺人を犯すが、それは実は與茂七と着物を取り替えた奥田庄三郎だった。 そこに来合わせ、両人の亡骸を見つけて嘆き悲しむお岩とお袖に、仇を取ってやるからと言いくるめ、伊右衛門はお岩と復縁、直助はお袖と仮の夫婦になる。 二幕目 雑司ヶ谷四ッ谷町の場 お岩は男の子を産むが、産後の肥立ちが悪く臥せっている。 伊藤喜兵衛は、伊右衛門と孫のお梅を夫婦にしようと画策、お岩に薬と偽って毒薬を届けさせる。 その薬を飲んだお岩は、にわかに苦しみ始めた。 伊藤喜兵衛内の場 見舞いの礼に来た伊右衛門に、喜兵衛は孫と夫婦になってくれと迫る。 女房のある身と、一旦は断る伊右衛門だが、吉良家への仕官と引き替えならと、その夜のうちに内祝言をすることを承諾する。 雑司ヶ谷四ッ谷町の場 伊右衛門はお岩を家から追い出す口実にと、宅悦に間男をさせようとするが、お岩の必死の抵抗にあった宅悦は、事の真相をすべてお岩に話してしまう。 伊右衛門と伊藤一家を怨みながらお岩は悶死する。 家に戻った伊右衛門は、雇い人の小仏小平を殺し、お岩の不倫の相手に仕立てて二人の死骸を戸板に打ち付け、川へ流してしまう。 その晩、喜兵衛とお梅がやって来るが、二人をお岩と小平の亡霊と見間違えた伊右衛門は、二人を斬り殺し、姿を消す。 三幕目 砂村隠亡堀の場 名を権兵衛と変えた直助が鰻を取っていると、伊右衛門が釣りをしに現れる。 日も暮れ、竿を引き上げたところへ、見覚えのある戸板が流れてきた。 お岩と小平の亡霊を斬りつける伊右衛門。 闇の中、仇討ちの同志を募る回文状を持った與茂七が通りかかり、直助権兵衛、伊衛門と立ち回りの末、回文状は直助権兵衛の手へ渡る。 四幕目 深川三角屋敷の場 お袖の見せの前を通りかかった宅悦は、お岩が伊右衛門に殺されたと話す。 悲しむお袖は、姉の仇も取ってもらおうと、ついに直助権兵衛と契りを結び、実の夫婦となるが、そこへ夫の與茂七が回文状を取り戻しにやってくる。 お袖は二人の男と契った罪に苛まれ、自ら二人に刺されるように仕組む。 息をひきとる間際にお袖が差し出した書付けを見て、自分とお袖が実の兄弟であることを知り、與茂七と思って殺したのは主人の息子、奥田庄三郎だったことを聞かされた権兵衛は、切腹して果てる。 大詰 蛇山庵室の場 お岩の亡霊にとり憑かれ、病の床に臥す伊右衛門。 念仏にも退散しない亡霊は、伊右衛門の母もとり殺す。 大雪の降りしきるなか、庵を出ようとする伊右衛門の前へ、お岩の仇を討ちに與茂七が現れる。 【客入り】 10代後半から60〜70代と思われる高年齢層まであらゆる世代が入っていた。満杯。 【感想】 これは、内容以上に、拷問のような観劇環境を覚えている作品。それは、後述するとして。。 四谷怪談は、1825年(文政8年)7月、江戸の中村座で初演された。 作者の南北と大道具の十一世長谷川勘兵衛は、より迫力のある舞台を見せるため、1枚の戸板の表裏に死体を括り付けて早変わりを見せる「戸板返し」をはじめ、提灯抜け仏壇返し、壁抜けといった仕掛けを考案し、現在の歌舞伎でもほぼ当時と同様の手法が使われている。 歌舞伎の古典であり、こうしたダイナミックな仕掛けが施されている本作を、蜷川幸雄がどう演出するのか? そして、竹中直人が伊右衛門をどう演じるのか? この辺に興味を持ったのが、観劇のきっかけだった。 こうした仕掛けは、前方席で楽しみたいと思い、2列目の桟敷席を購入。 桟敷席というのも歌舞伎っぽくて良いな〜と思っていたのだが、これが全ての悲劇の始まりだった。。 最前列は足を伸ばせるからまだしも、2列目の狭い桟敷席は、足も伸ばせず、体もほとんど動かせず、一部150分と二部80分のほぼ4時間を体育座りする羽目に。。 はっきり言って、芝居観る環境じゃないよ、こりゃあ。お尻、腰が異常に痛くなるし。 そう思っていたのが私だけでないのは、一部終了後の休憩で「やっと終わった」とか、「お尻痛すぎ」と言っている人で溢れていたことからも想像に難くない。というか、こんなこと事前に分からなかったんだろうか。分かってやってる?Sなの?蜷川(←呼び捨て)はSなの? 歌舞伎の仕掛けを忠実に再現した蜷川演出は凄かったし、迫力あった。 お岩役の藤真利子が、血糊をつけて、目を見開いて恨めしそうに戸板から出てきた時はかなりの衝撃だった。 でもお尻痛い。 一方、不満点も。蜷川さんは、"理想にはぐれ自虐的な転落を重ねる若者の青春ドラマ"として、現代風にアレンジしたらしいのだが、これはイマイチだったと思う。 ところどころ台詞を現代語に直している割には、基本は古語だったり、伊右衛門が何故か突然、ライターでタバコに火をつけたシーンは、中途半端。 スカパラの音楽も、無駄に明るいので、四谷怪談に馴染まず、全編妙にちぐはぐしている印象。 この作品は、歌舞伎特有の演じ方は変えるにしても、オリジナル忠実にやったほうが良い作品なのでは、と思います。 というか、とにかくお尻痛い。 まぁ、なんだかんだ言いながらも、舞台装置や照明は素晴らしかった。 煙が青く照らされるシーンは幻想的な雰囲気があったし、人魂も生々しかった(唯一、鼠の着ぐるみだけは、失笑が起こっていたが) 下から人力で動かされている舞台、客席後方から現れる多くの役者、数え切れない程の舞台装置、到るところから現れる怨霊なども含め、見所は多かった……のだけど、お尻痛い。 役者に関しては、髪を振り乱し、恨みに身を悶える藤さんのお岩が一番見応えあった。 狡さと残忍性、怨霊に呪われた後もふてぶてしさを持った竹中さんの伊右衛門。 不気味で臆病な田口さんの宅悦も良かった。 一方、台詞棒読みの広末は、正直微妙だった。 でも、それより何よりお尻痛かった。 約4時間だった上演時間については、「四谷怪談としては長くない」という意見や「やっぱり長い!」という意見etc、色々あったようだが、本当に現代風にするなら、もっとスリムにしても良かったと思う。 そもそも桟敷席での体育座りの痛さで、実際以上に長く感じたよ。 ……というわけで、どこまで言っても、この演劇は、お尻の痛みと共に記憶される作品。 |
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