Joker

【lyric】

どんなに強い感情でも時が経てば忘れるもの
今のこの強い感情もじきに消えてしまうのか?
忘れたくない場所がある 忘れてはならないこともある

ジョーカーめくる覚悟が必要だ たとえ確定していたとしても
時の流れに逆らうように 君の気持ち引き戻すのさ
過去を懐かしむのではなく 君を今に連れ出すために

どんなに強い感情でも時が経てば忘れるもの
今のこの強い感情もじきに消えてしまうのか?
忘れたくない人がいる 忘れてはならないものもある

ジョーカーめくる勇気が必要だ たとえ確定していたとしても
時の流れに逆らうように 僕の気持ち引き戻すのさ
過去に縛られるのではなく 今をより深く知るために


【self liner notes】

高校生の頃、何気なくつけたTVで「ひめゆり学徒隊」に関する番組がやっていました。

悲惨な戦争に従軍し、爆弾の雨に命を散らした事実。
そして事実を風化させないように、今も語り継いでいる生存した語り部の肉声。

そうした映像の中で、特に印象に残ったのが「思い出すのは辛い。時の経つままに忘れられたら幸せかもしれない。でも風化させてはいけない。それは生き残ってしまった私たちの使命」という言葉でした。

戦争による肉体的な痛みや精神的な恐怖は勿論、生き残れたことは素晴らしいのに、そのことに後ろめたさを感じなければならない哀しさや、"時のままに感情を忘れゆくこと"に抗い、その生々しさを風化させないように対峙する強さ。その背後にある使命感に大きな衝撃を受けたのです。

その時感じた衝撃を曲にしようと思い、当初は、直接的な歌詞、プロテストソングのような感じにするつもりでした。
しかし、頭に直感的に浮かんだ「どんなに強い感情でも時が経てば忘れるもの」「忘れてはならないこともある」「時の流れに逆らうように」といった歌詞の断片をつないだ時、自分が作ろうとしている曲の照準が「"時のままに感情を忘れゆくこと"に抗い、その生々しさを風化させないように対峙する」部分に当てられていると感じました。
同時に「時の経過と共に、人は感情を忘れていく。だが人には忘れたくないものや忘れてはならない感情もある」ということは、日常生活にも普遍的に存在することだと思いました。

だから具体的に限定した話題を出してプロテスト・ソングにするよりも、普遍的かつ明確なメッセージを持つ歌詞にすることで、聴き手が色んな情景や自身の経験を想起できるようにしたい。そう思いました。

そんな意図をもって、勿論、自分が受けた衝撃も投影し、最終的にできたのが完成した歌詞でした。

メロディーの方は歌詞を作る過程で自然と浮かび、最初はストローク演奏のアコースティック・ギターをバックにしたアレンジ。
そして次は、Bob Dylanの"The Lonsome Death Of Hatti Carol"のようなバラード調のアレンジも試しましたが、言葉が上手く乗らず。

しっかりとしたリズムと、疾走感。カチカチと硬質な音ではなく、流れるような音色。
当初から、この曲はギター・ソングだという認識だったので、1〜3弦をとっぱらってみたりもしましたが、上手くいかず、10年ほど経ったある日、偶然、ピアノで演奏したところ、呆気ないほどイメージしていた通りになり録音したのがこのバージョンです。

【self liner notes追記(2015/6/6)】
先日、初めてひめゆりの塔に行きました。
併設されている資料館に入るとまずこう書かれています。

「戦争を知らない世代が人口の過半数を超え、未だ紛争の絶えない国内・国際情勢を思うにつけ、私たちは一人ひとりの体験した戦争の恐ろしさを語り継いでいく必要があると痛感せざるを得ません」

中では、ひめゆりの由来、看護生として後方支援にまわると聞いていたら戦闘の前線であったこと、兵隊の傷口をはう蛆を取ったことや、うめき声をあげて死んでいく人々、学友たちの死に直面した時のこと、アメリカ軍に囲まれる中で解散命令が出たことなどが遺品や写真、証言映像とともに解説されていました。

そんな中で、当時の様子を生々しく語る女性が。
ひめゆりの塔では、2015年3月をもって、生存者の証言はなくなっていたと聞いていたのだが(証言者の高齢化のため)、偶然いらっしゃったのでしょうか。

混んでおり、直接会話はできませんでしたが「生き残ったことが、残してきた人にすまないと思うこともある。この経験が風化しないよう語り継がなければならない」と仰っているのが聞こえました。

「悲しい」、「可哀想」、「恐ろしい」という言葉で表現することすら躊躇われる経験。
思い出すことすら辛いこの経験が二度と繰り返されないように、平和な今が幸せであることを、知らない世代がより深く知るために、明確な意志をもって語られる姿に涙が出ました。
そして高校生の時、この曲を書く動機になった場面を思い出しました。

"Joker"は、普遍的な感情を歌った曲ですが、作るきっかけになったのは、ひめゆりの塔で語り継ぐ方々。
そのきっかけにわずかでも触れることが出来て良かった。そう思います。





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