Mr.Win's Room

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海の上のピアニスト

 

2002年7月25日(木)午後7時開演
会場:ル テアトル銀座
原作:アレッサンドロ・バリッコ
上演台本・演出:青井陽治

出演:市村正親、稲本響(ピアノ)

【ストーリー】
乗客が全員降りたあとの豪華客船で、1つのダンボール箱が見つかった。
その中にいたのは、生まれて間もない赤ん坊・・・。
彼がダニ―・ブードマン・T・D・レモン・ノヴェチェント。
海の上で生まれ、海の上で終わりを迎えたピアニスト。
1900年生まれにちなみ、イタリア語で900という意味の、「ノヴェチェント」と名づけられた―。

ある夜、船内に美しいピアノの音色が響き渡った。
誰もが息をのむそのピアノを弾くのは、まだ少年のノヴェチェントだった。
時を経て、彼は「この世のものではない音楽を弾く」といわれる、海の上のピアニストになった。

トランペッターと彼が出会ったのは、1927年。
船の上しか知らないピアニストの、ピアノを弾くのではなく、操っているかのようなその動きはトランペッターを驚かせ、その音楽は心を震わせた。
そして、いつしか彼らは永遠の友になった。
トランペッターは聞いた。「なぜ、船を下りないのか」と。
小さな世界だけで終わらせるに惜しいことは、誰の目にも一目瞭然だったから。
しかし、ノヴェチェントは何も答えなかった。

ところが32年間、海の上で暮らしたノヴェチェントが、ある日言った。
「陸地から見たいものがある」
そのために船を下りる、と言うのだった・・・。

【客入り】
ほぼ満杯。なのに私の左席は空いていた!!年齢層は20代〜60代くらいまでと幅広い。

【感想】
アレッサンドロ・バリッコによる"Novecento. Un monologo(海の上のピアニスト)"は、94年に刊行された戯曲で、ヨーロッパ各国、ロシア、カナダ、南米諸国で上演され、98年にはジュゼッペ・トルナトーレ監督により映画化もされた作品です(日本では、この映画版が有名でしょうか)

市村正親さんの一人芝居というだけで、もう楽しみで楽しみで。
"You Are The Top"での市村さんは、気の良い、楽しい作詞家でしたが、今回は、トランペット吹きとして、天才ピアニスト・ノヴェチェントを語ります。
格好良い市村さんが観られます。
それにしても、一生、海で過ごすって、どんな気分なんでしょうか。
私には想像も出来ないことですが、陸から海を見ようとした気分は、何となく分かる気がします。
Tom Waitsの名曲"Sandiego Serenade"に「はるか遠くに暮らすまで、故郷というものを知らなかった」という歌詞もありますが、まさしくそんな気分でしょうか。
パンフレットの羽田健太郎さんとの対談で、市村さんは、 「最後にね、ノヴェチェントがどうして船を下りなかったかっていうのを親友のトランペッターに語るんだけど、いいんだよね、そこが。今も鳥肌が立ってるぐらい」と、仰ってますが、この最後のシーン、良かったです。

「陸には全てがあった。でも、唯一、境界線が無かった」

ピアノは、88鍵しかない。そういう限られた中から無限の曲を作るのが楽しみだったが、陸地にはあまりにも沢山の道が、そして人がいる。
鍵盤が無限大にある。そんなピアノは神様にしか弾けない。
「なんでもかんでも手を広げるんじゃなくて、決められたその中で、いかに自分らしく生きるかが大事なんだと思う」と、市村さんは述べていますが、これも1つの人生ですね。
以前、司馬遼太郎さんの本で、人間には、1つのものを掘り下げるタイプと広く探検していくタイプがある、みたいなことが書いてあって、そのことを思い出したり、ノヴェチェントの考え方は、どちらかといえばカトリック的だなぁ等と考えていました。
でも、無限を彷徨うのも良いもの。そこにだって自分らしく生きることを見出すことは出来ると思います。
ゼネラリストのスペシャリストも存在するし。
どちらの生き方が良い、というわけでなく、人それぞれ、幸福を感じられる方を選べば・・。
あと、もう1つ思ったのは、もしノヴェチェントが、もっと若い時だったら(それこそ、トランペッターが、ヴァージニアン号に乗った時のように17歳だったら)陸地に下り立ったのかな、ということ。
あるいは、ピアノの天才でなかったら、下りていたかもしれません。

あと、パンフレットでは、ある評論家が、「ノヴェチェントの姿に時代への愛惜や文明批判が込められている」と書いてますが。
たとえ、原作者の意思もそうだったとしても、海でしか生活しなかったノヴェチェントに、文明批判まで投影するのはチョット苦しい気がします。
仮に、数日間だとしても、陸地で生活したなら、話は変わってきますが・・・。


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