エッセイ32 まぬけな一夜 秋から初冬にさしかかった頃の話。 ある朝起きてTVをつけると、星占いがやっていた。うお座はビリ。「うお座のあなたには、今日は悪いことが起こるかも〜」とか言われている。 起きて早々ヘコんだものの、「まぁ、あまり気にしないでおこう」と思いつつ、いざ会社へ。 若干寒かったので、私はその年初めて、コートを着て出勤した。 その日の昼休み。カレーうどんを食べたところ、うどんが跳ねてシャツにカレーがかかってきた。 「あぁ、悪いことってこれだったのね」と思いつつ(←やっぱり気にしていた)、「これで悪いことは終わった」なんてちょいとホッとする。 "ホッと"といえば、朝低かった気温もこの頃には随分と暖化。 17時過ぎ、帰る頃になるとコートなしでもOKな状態になっていた。 そして会社を出た帰り道。mp3プレーヤーを取ろうとスーツのポケットを漁るが見当たらず。 この時、コートを会社のロッカーに忘れていたことに気付く。 「まぁ、今日は暖かいしな〜。わざわざ戻るのも面倒だから、このまま帰ろう」 というわけで10分間程度の手間を惜しんだ私は、そのまま帰宅。家(マンション)についた。 そして玄関を開けようとスーツのポケットを漁るが見当たらず。 「……。……!しまった!コートの中だ!」 というわけで、酔いも一気にさめ、焦ることに。悪いことってこれだったのかよ!! この時間からわざわざ大阪の会社まで戻るのは絶対に嫌。でも鍵はない。おまけに携帯電話までコートの中に置いてきた模様。 友人の家に泊めてもらうわけにもいかないし。。 というわけで仕方なく、ホテルに泊まることにした。 サウナや漫画喫茶という手もあったのだが、水曜日だったので、翌日も会社。モーニングコールがないと起きれる自信がなかったのだ。 私は京都に住む前から頻繁に京都に来ていた。なので、安い旅館やらホテルやらもかなり知っている。 まぁ、数件探せばどこかシングルが空いているだろう……とたかをくくりつつ10件程あたってみたのだが。。 「修学旅行生が泊まっておりますので」 どこもこの決め台詞でアウト。最近の学校は修学旅行で海外に行くところが多いと聞いたんだけど。。案外そうでもないのね(汗) 1時間以上も歩きまわった挙句、途方に暮れつつ取り合えず家に戻る。そしてダメ元で(結構、高額と知っている)家の真ん前のホテルのフロントへ。 「あの、今日一晩だけシングル1室空いてます?」 「シングルは空いていませんが、トリプルなら空いています」 ……。無理だ。さすがにトリプルに泊まる金は……ない。 「でもさすがにトリプル料金で……とは言いません。シングル料金のさらに3割引でいかが?」 おおっ!シングルのさらに格安で!! 私が即決したのは言うまでもない。 ワクワクしつつトリプルの部屋へ。おお!広い!ベッドが3つある!ひゃっほ〜! 妙にハイテンションになった私は、1つ目のベッドで寝ころび。そして数分後、意味もなく2つ目のベッドで寝ころび。さらに数分経ってから、3つ目のベッドでも寝ころんだ。 ……だが、当たり前だが、ハイテンションに見合うことは何も起こらなかった。 それが私をちょっと冷静にした。 よく考えてみると、そもそも家なら無料だったわけで。しかも散々歩き回って結構疲れた。 そんなことを思うと、改めてグッタリしてきた。 とりあえず意味もなくロビーで新聞を読んだ後、部屋に戻って窓から夜景を眺めてみた。 正面に、我が家(マンション)が見えた。 なんか更にグッタリした。 ちなみに夜のハイテンションが響いたのか、翌朝は2度寝しそうになった。 なんとか起きて慌ててロビーで代金を払おうと財布を開けたところ、財布に家の鍵が挟まっていた。。 そもそも鍵は、コートではなく手元にあったのだ! 私は3度グッタリした。 占いで言ってた悪いことって、結局、これだったのかよ! 心の中でツッコミつつも、それすらもどうでもよくなっていた。 |
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