エッセイ31 雨の日の男 雨が降った夜のできごと。 その晩は風も強く、右手に持っていたビニール傘は強風に煽られてすぐに壊れてしまった。 雨の中、1人道にポツン。 激しい雨で、一瞬のうちに濡れ鼠になる私。 同じ体験をしたことがある方なら分かると思うが、こういう時はえてしてハイテンションになるものだ。 私も妙にハイになり、周囲を見たところ、誰もいなかったので、ミュージカル映画"雨に唄えば"よろしく軽やかなステップを踏んだ。 ……10m程スキップした辺りでだろうか。 よくよく前方を見ると、おじいさんが1人、こっちを凝視していた。 暗くてよく見えなかったのだ。 マズい。非常に気まずい。というか、ちょっと恥ずかしい。 同じ体験をしたことがある方なら分かると思うが、こういう時はえてして何気ない素振りをするものだ。 私は何事もなかったかのように、「さ〜て、どこ行こうかな〜?右かな〜?左かな〜?」みたいな仕草をした。 勿論、おじいさんと丁度すれ違う時はなるべく視線を逸らしていたのはいうまでもない。 ただ、数秒後、私は自分のクサい演技に意味がないことに気付いた。 その道は一本道だったのだ。 背中に感じる視線が凄く痛かった。 |
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