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『熱海殺人事件』ラストメッセージ


2026年3月1日(日)14時00分開演
会場:新宿紀伊国屋ホール
作:つかこうへい
演出:中江功

木村伝兵衛部長刑事:荒井敦史
婦人警官水野朋子:村山彩希
犯人大山金太郎:横田大雅
熊田留吉刑事:高橋龍輝
爆弾&ダンサー:久保田創、柳下大、平塚翔馬、濱田和馬、松本有樹純、伊藤佳

つかこうへいの代表作として名は知れど、未見だった「熱海殺人事件」。
筋書きとしては、"取るに足らない平凡な殺人事件"を、"人の目を引くようなドラマチックな殺人事件"に仕立てあげるというもので、結論・面白かった。というか、パワーが凄かった。以下色々書いているが、実際に観劇している間は考える余裕などなく、巻き込まれているという感覚だった。

観ていて印象に残ったのは以下の4点。
1. 大声での早口の応酬や大音量のクラシックから感じられるパワー
のっけからマシンガンのような早口セリフの応酬がはじまり、これが(後半の海岸シーン以外は)全編に渡って持続される。
ラップバトルのようなテンションの高さに被せるように大音量のクラシック音楽が流れ、これでもかとばかりに事件を大仰にしていく。
その熱量が初見にはとにかくインパクトがあり、中でも淀みない木村刑事(荒井敦史さん)のセリフはとても心地よかった。

2. 犯人の大山金太郎の変化
当初、自分の犯した事件が脚色されていくことに抵抗を示していた金太郎は、ラストでは木村刑事に「有難う」と述べる。
恐らく最初は、事実のまま裁かれ、あわよくば多少減刑されれば良いなぁぐらいに思っていたであろう彼が「こんな劇的な事件の主人公にしてくれて有難う」という心境に変わった場面なので、印象に残った。

彼はなぜ心変わりしたのか。
木村の強烈な毒気に当てられたんだろうか。どうせ殺人の事実は変わらないし、事実の動機では減刑の見込みもない。なら消え去るよりも、華々しく散ってやる!最後だけでも脚光を浴びて終わりたい!と思ったんだろうか。
そう思ったのは10代で若かったから?彼が60代だったら、「正直どっちでもいい」という心境になっただろうか。
自分ならどうだろう。もし減刑が見込める物語なら、より平凡になっても構わないので是非。でも判決が変わらないなら、ありのままの事実で裁かれたい。虚飾の華々しさで注目されても虚しいし。
もっともRPGやる時は主人公の名前に自分の名前を入れるタイプなので、いざ木村刑事に迫られたら心変わりする可能性は大いにあるな。
そんなことを考えた。

3. 熊田刑事の変化
富山から来た地味で真面目な熊田刑事。当初は木村刑事に反発するも、途中から彼に仕立て上げられた「警察のお偉いさんの娘と結婚してエリートになる」という物語に染まっていく。
でも最後は、現実に立ち返って富山に戻る。
ラストで、木村刑事に「あの娘さんの話は嘘です」と言われた時、熊田刑事が照れくさそうに笑うシーン。これが「虚構の物語ではなくて、現実の自分を(木村刑事が作ったような)華々しい自分にできるよう頑張る」という意思表示に見えて印象的だった。

4. 木村と水野の関係
パッと見、上司であり愛人関係でもある木村が主導権を持っているようだが、実際には「どうすれば木村が喜ぶか(また動揺するか)」を熟知している水野が手玉に取っているようにも見えて面白かった。

木村は何かにつけて「水野はもうすぐ結婚する!」と連呼する。別に平気だと言わんばかりに。
でも水野を失うと、自分自身がありたいと思う刑事像も男性像も壊れてしまうことを木村自身が一番知っている。
だからやせ我慢に見えるし、同時に、やせ我慢している自分が嫌いじゃないようにも見える。M気質が感じられる。
水野を粗雑に扱うそぶりは、子供が好きな子にちょっかいを出しているのを思わせるし、水野の結婚披露宴で自分の愛人だったと公表しようとする妄想に至っては、「水野を手放したくない」という必死さに溢れている。

水野は、そんな木村の心情も、子供っぽい性格も分かった上で、「私結婚するんで」と去ることをチラつかせ、手の上で転がしている感があった。
彼女は、木村の心を知った上で少しいじめることを楽しんでいる。結婚が決まる以前も、恋人の存在をチラつかせて楽しんでいたのではないだろうか。
多分、彼女はいざ結婚したら物足りなさを感じると思う。いや、彼女のことだから何かしらの方法で木村とのW不倫関係という一歩進んだ展開を楽しむことすら見据えているようにも思える。

演じた村山彩希さんはパンフレットで「上品に部長を愛することを意識したい」とコメントしているが、そのアウトプットがこういう手玉に取る感じに思えた。
一方、残念ながら降板となった大原優乃さんは水野について"部長に人生の全てを捧げてきた人"とコメントしていて。多分、大原さん演じる水野はMだったんじゃないかと。観たいな。今日観ながらゆるキャン△のなでしこがあのテンションで部長とじゃれ合うのを想像したら全然違う水野像だったし。


ところでパンフレットで 演出の中江功さんが「つかさんの時代を知る人々と共に、この系統の『熱海』をなるべく残せたら一番いいな」と語られていた。
確かに本作、時折旬なネタで笑いを取りつつも、現代風に設定を寄せすぎず、"地方"と"東京"も一昔前の価値観で描かれていたように思う。
だから「初演以来受け継がれてきたオーソドックスな"熱海殺人事件"」を体験できたのではないだろうか。
そして、そこにやっぱり刺さるものがあった(なんやかんやでドラマチックな物語好きだし)から長いこと続いているのかな、と思った。
今後「熱海」を観る機会があれば、今回が物差しになる。そんな物差しがオーソドックスに本来の魅力を伝えてくれるバージョンだったのは良かったなぁと思う。

じゃあ、今後少しアレンジしたものを観るなら、どんな演出のものが観たいだろうか。
木村刑事を司馬遼太郎、大山金太郎を坂本龍馬に置き換えたバージョンとか観てみたい。
なんてことない平凡な事実を劇的な物語にして大衆の心を掴むって、まさに歴史小説のやり口だから。
その時の(多分M気質になる)水野は、大原優乃さんで。


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