先生の背中
2025年6月8日(日)18時00分開演 会場:PARCO劇場 作:鈴木聡 演出:行定勲 音楽:斎藤ネコ 小田昌二郎:中井貴一 竹井幸子:芳根京子 谷葉子:柚希礼音 藤田和美:土居志央梨 高木千代:藤谷理子 野崎公造:升毅 浦尾花江:キムラ緑子 佐藤誠司、川中貞介:坂本慶介 江島昭代:湯川ひな 他 去年、尾道・松阪と縁の地を巡ったので、小津安二郎という人物に興味を抱いていた。 そんな折「映画監督・小津安二郎をモデルに、特に"生涯独身を貫いた小津監督の美意識を醸成したと思われる様々な立場の女性たちとの関わり"を、昭和の映画界を背景に描いた演劇」が上演されると知り、販売初日にチケット購入!…….というのは全くの嘘ではないのだが、60%ぐらいは6年ぶりに舞台出演する芳根京子さん目当て。 "べっぴんさん"から"めおと日和"まで色々、"みみリコ"も聴いていたので、一度生で観てみたいなと。 そんなわけで足を運んだのだが、開演前にパンフを読んで小津安二郎と中井貴一さん(やご両親)のエピソードを知ってビックリ。不勉強なので全然知らなかった。 そもそも本作の起点は中井さんが語った人間味溢れる小津安二郎だったとか、中井さん自身の出生時エピソードも劇中に登場するとか。 色々読んでいる内に、開演直前には小田先生(小津安二郎)を演じる中井貴一さんへのワクワク感で一杯になっていた。 以下、終演後に箇条書きした感想。 @女性たちと向き合う小田先生には大人の余裕が。スラッと長身で物腰も柔らかい。そりゃモテる。 Aでも自作品のセリフ終わり同様、一定の距離を保っている。誠実に向き合うし、根は親切なので甲斐甲斐しく世話もする。実際、女性たちを本当に好きだったと思うが、一方でふと我に返り"結局は他人"みたいに感じてしまう瞬間もあったのではないかなぁ。 Bだから小田先生が生涯本気で愛せた(というか、疑いすら抱かずに信じ切れて、かつ無邪気に甘えられた女性は)本当の家族であるお母さんだけだったように思えた。 C小田先生が好んだ"無"という言葉には(映画監督として)"なんでも収められる"という意味だけでなく、"結局、自分は子孫を残せなかった"という自嘲も内包されているように感じた。 Dその意味では、(血は繋がらずとも)名付"親"になった貴...誠一は特別な存在だったのでは、と思った。"貴一"だけは実名でも良かったと思う。 Eお母さん以外では、やっぱり幸子が人間・小田先生にとって特別な存在だったように思う。他の女性と違って娘ポジだったが故に、無邪気に素直に、気の置けない接し方ができたのではないか。芳根さん演じる幸子はまさにそんな感じだった。 F一番印象に残ったのは(撮影中の作品がラスト作になる前提で準備した)葉子のシーンをカットすると宣言した瞬間。あれは"自分の人生の終わりを決めずに生きる!"という決意表明であり、何でも入る"無"に映画人として100点を入れようとする気概に感じられた。あのシーンは泣いた。 Gだから、その後の「なんで葉子さんのシーンをカットするんですか!」と詰め寄るくだりは蛇足だったと思う。あんな説明無くても小田先生の気持ちも葉子さんの気持ちも分かる。それに「説明っぽいシーンだからカットする」と言った直後だったし。 Hいわゆる"ザ・昭和感"はそこまで感じなかった。それが良かった。 I小津安二郎の初恋の相手・糸枝さんをモデルにした女性が出ると予想したのだが...出なかったか〜。 A〜Dあたりは、あまり同意してもらえなさそう。 Fは、観劇した私の家族が闘病中なので"生きる"ことに敏感だから、とりわけ感じたのかもしれない。 帰宅後パンフも読了した。Cross Talk面白かった。そして北鎌倉に行きたくなった。 実際の小津先生は、なんだかんだで最愛の母と10年以上静謐な地で過ごせたのだから、幸せだと思う。 ともあれ久しぶりの観劇、1桁列目中央付近と良席だったのも含めて楽しかった。 (小津作品というよりも)小津安二郎と関わった女性のエピソードをもっと読んでみたくなった。 |
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