Mr.Win's Room

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新ハムレット〜太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?〜


2023年7月9日(日)午後02時00分開演
会場:森ノ宮ピロティホール
作:太宰治
演出:五戸真理枝

ハムレット:木村達成
オフヰリヤ:島崎遥香
ホレーショー:加藤諒
レヤチーズ:駒井健介
ポローニヤス:池田成志
ガーツルード:松下由樹
クローヂヤス:平田満

【ストーリー】
原作はこちらで読めます。

【客入り】
満員。

【感想】
最近、太宰治の作品を読んでおり、そんな中チケットが入手できたので演劇「新ハムレット〜太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?〜」を観劇した。

「新ハムレット」は戯曲形式をとって書かれた太宰初の長編小説(なので戯曲そのものではない)
復讐劇・悲劇だったハムレットを2つの家庭の話に集約し、"若者vs大人"といった構図も追加。登場人物に激しく自己主張させている。
特に「あーでもない、こーでもない」と言葉多く葛藤するハムレットはまるで太宰自身。実際、オフヰリヤが語るハムレットの容姿(鼻が長く、目が小さく、眉も太すぎる)も太宰そのものだ。

また本公演パンフレットの特別寄稿(安藤宏氏)に、
 ・新ハムレットの内容で興味深いのは、作中のクローヂヤスをどう評価するかである。
 ・太宰は(再録本のあとがきに)「クローヂヤスに依って近代悪といふものの描写をもくろんだ」と述べている。
 ・しかし、実際にはクローヂヤスを「悪人」として突き放し切れていない点に、この小説の妙味があると思う。
とある。

太宰の言う「近代悪」とは「気の弱い善人に見えながら、先王を殺し、不潔の恋に成功し、てれ隠しの戦争を始める人」らしい。
しかし、体面ばかり気にする"弱い人"、"小さい人間"であるクローヂヤスは、悪人でありながら同情を呼ぶ「突き放し切れていない」存在だということなのだと思う。

興味が出たのでネットで軽く調べたところ、昭和文学研究 43巻 (2001)に、「新ハムレット」論-偽善をめぐって-(小林幹也)という論文があった。
結論を要約すると、
・このクローヂヤスのキャラクターは、シラーの「ドン・カルロス」を参考にしている。
・「ドン・カルロス」に登場するフィリップ2世も帝王学を喪失した「弱い人」、「小さい人間」。
・ただし、フィリップ2世もクローヂヤスも、一般大衆ではなく王だから「弱い人」、「小さい人間」では民衆が迷惑する。
・こうした「弱い人」、「小さい人」が無意識に自分自身にも、そして他人にも、自分が悪人ではないことを納得させようとする点。これこそが、太宰が糾弾する「偽善」であった。
というもの。


前置きが長くなったが、そんな太宰の想いだったり、ハムレットやクローヂヤスのキャラクターを念頭に本公演を観た。

人の良さげな平田満さんのクローヂヤス。体面を気にするいかにも「小さい人」で、でも確かに自分を正当化しようとしている。太宰が言う偽善を纏っている。
そのクローヂヤスに反抗する木村達成さんのハムレット。悶々自問自答した挙句、ラップまで歌い出す。ザ・太宰。
確かに生きていたら、ラップやってそうだ。
貫禄たっぷりのガーツルード(松下由樹さん)と自由なオフヰリヤ(島崎遥香さん)の嫁姑(?)、井戸端会議的な掛け合いもいい。

原作の大量のセリフをほぼ踏襲した上演時間はトータル2時間45分。
中々の長丁場ながら、コミカルなシーンも適度に散りばめられ(そして、その大半を加藤諒さんのホレーショーが引き受けていた)結構あっという間だった。

プログラムも(2,000円はちと高いが)充実しており、観て良かったと思える演劇だった。

なお上述の論文によると、"若者vs大人"という要素、さらにはハムレットの年齢設定なども「ドン・カルロス」の設定を借用しているのでは、と思われるようで今度は「ドン・カルロス」の方も読んでみたくなった。

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(制作:木戸涼)

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