吉例顔見世興行(午後の部) 2013年12月23日(土)午後4時15分開演 会場:京都・南座 第一 元禄忠臣蔵 第二 市川猿之助、市川中車 襲名披露口上 第三 黒塚 第四 道行雪故郷 第五 児雷也 【概要】 吉例顔見世興行は向こう1年の一座の顔ぶれを披露する興行で、350年以上の歴史を有する「歌舞伎の国の正月」とも呼ばれる最大級のイベント。 今年は俳優の香川照之が市川中車の名を継いだことで注目された。夜の部は以下が上演された。 第一 元禄忠臣蔵 真山青果の連作「元禄忠臣蔵」の中でも人気の高い一編。1940年初演。 (第一幕) 時は元禄15年。恒例の御浜遊びが催される徳川綱豊の浜手屋敷の庭。 高級女官の浦尾が、中級女官のお喜世を見咎めている。 お喜世は、許可なしに、兄の富森助右衛門から手紙を託されていたのだ。 そこへ現れた祐筆の江島。彼女はお喜世をとりなし、感謝したお喜世は江島に手紙を見せる。 助右衛門が託した手紙は、浅野内匠頭の後室に仕える老女からのもので、「浅野家再興が叶うよう、綱豊に口ぞえして欲しい」との内容。 赤穂藩主・浅野内匠頭は、1年前、江戸城で吉良上野介に刃傷事件を起こしたため切腹となったのだ。 内容を知った江島は、「綱豊は政治に無関心を装っているが、それは将軍の後継者問題で候補者になっているから。あくまでも表向きであり、浅野家再興の願いを聞き届けている様子だ」と語る。 これを聞いたお喜世が、「助右衛門に御浜遊びを見せてやって欲しい」と願うところ、綱豊が現れる。 丁度そこへ御台所の付人・津久井九太夫が来て、「浅野家再興を将軍家に申上して欲しい」と申し出るが、綱豊は取り合わない。 一方、お喜世から助右衛門が御浜遊びの隙見を願っていることを聞いた綱豊は、「今晩の能の催しに招いた吉良上野介の面体を知りたいのだろう」と推量した上で、(浅野家への忠義が失せていない証拠だが)不意討ちは武士の恥じるところだと伝えるよう命じたうえで、隙見を許す。 (第二幕第一場 御浜御殿 綱豊 御座の間) 浅野家再興を将軍に願い出るべきか否か迷う綱豊は、学問の師である新井勘解由を呼び寄せる。 勘解由は、「綱豊が口添えすれば浅野再興は成る」と応え、綱豊も同意するが、できれば大石内蔵助ら赤穂浪士に仇討ちの本懐を遂げさせてやりたいと思っている。 綱豊の意見を聞いた勘解由は、日ごろの講義の成果を感じ、感動の念を覚えるのであった。 (第二幕第二場 御浜御殿 廊下) 助右衛門は綱豊の予想通り、今晩屋敷を訪れる吉良の容貌を確認したいと考えていた。 そっと見るつもりで番人に案内された助右衛門は、江島から綱豊が待っていると聞かされ慌てふためくのだった。 (第二幕第三場 御浜御殿 元の御座の間) お喜世相手に綱豊が盃を傾けると、助右衛門が姿を現す。 しきいを越えようとせず、御前を退がろうとする、落ち着かない様子の助右衛門。 それを見て、吉良の来訪を気にしていると察した綱豊は「自分に仕える気はないか」と尋ねる。 その申し出を婉曲に断る助右衛門に向かい、「お喜世に迷惑がかかることでもあるのか?」と意地悪く問いただす。 仇討ちを考える助右衛門は、内心慌てるが、「奉公する気は無い」と言い逃れる。 すると綱豊は、大石を罵り始め、さらに吉良上野介が上杉家を頼って米沢へ引退しようとしていると告げ、助右衛門の反応によって、赤穂浪士に仇討ちをする心があるか探ろうとする。 助右衛門は、「遊興にふける大石はたがの外れた桶同然」と応え、綱豊の追求から逃れようとする。 だが、綱豊は「大石の遊興は、仇討の真意を隠すためであろう」となおも追求。 これに対し助右衛門は「ならば、綱豊の遊興も、6代将軍の職を望むゆえなのか?」と問い返す。 2人の様子を見ていたお喜世は、堪え切れず、助右衛門に踊りかかろうとする。 そんなお喜世を押しとどめた綱豊は、助右衛門に「思うところを述べよ」と命じる。 助右衛門は、綱豊の遊興は、将軍・綱吉の猜疑を避けるための方便であると断じた上で、「大石も恐らく上辺のみの遊興であろうが、本心は分からない」と申し述べる。 納得した様子の綱豊は、関白家から浅野家再興の助力を依頼されていること、また浅野再興が成れば、仇討ちはできなくなることを語る。 これを聞いた助右衛門は、思わずしきいを越え、手を支えて綱豊の眼を見る。綱豊も見返し、助右衛門の心情を察する。 (第二幕第四場 御浜御殿 御能舞台の背面) 夜も更けた頃、槍を携えた助右衛門が忍んで来る。 そこに望月の姿を模した人物があらわれる。 これぞ吉良よ!と思い襲い掛かる助右衛門。しかし、それは綱豊であった。 驚愕する助右衛門の襟髪を引き据えた綱豊は、その不心得を諭し、大石の心情を鑑みるよう命じた上で、能舞台へと向かっていくのだった。 第二 市川猿之助、市川中車襲名披露口上 四代目・市川猿之助、九代目・市川中車襲名の披露口上 ※二代目・市川猿翁の襲名披露口上も予定されていたが、病気のため欠席 第三 黒塚 名僧阿闍梨祐慶は諸国行脚の途中、奥州の安達原にさしかかると、岩手という老女に一夜の宿を求める。 願いに応じ、一行を迎え入れる岩手。一行は家にある糸車に気付く。 岩手は糸繰り唄を歌いながら、糸を手繰ってみせるが、やがて涙する。 彼女は、元はといえば都の者。流罪となった父とともに奥州に下った身で、岩手の夫は都へ上ったまま、彼女を見捨てた。 ゆえに夫を恨み、生きる望みもないまま、長い年月を独り暮らしていたのだ。 岩手の経歴を聞いた祐慶は、仏の教えによって悟りの道に入るならば成仏すると説く。 その言葉に心晴れた思いがする岩手は、閏の内を見てはならないと固く戒めた後、祐慶たちをもてなすため、薪を取りに山へと向かう。 やがて祐慶たちが夜の勤業をするところ、岩手の言葉が気になったお供の太郎吾は、興味本位で閏の内を覗き見る。 中は一面血の海で、辺りには人骨が転がっていた。 実は、岩手こそが安達原の鬼女。これを知った、祐慶のお供たち(大和坊や讃岐坊)は立ち騒ぐが、祐慶は泰然と押し鎮める。 一方、薪狩りに行った岩手は童女の頃に戻った心境で踊りを踊るが、そこへ血相を変えた太郎吾が現れる。 閏の内を見られたと悟った岩手は、祐慶ほどの聖人ですら約束を守らないという人の心の偽りに怒り、鬼女の相を顕し、姿を消してしまう。 出立した祐慶たちは古塚へと辿り着くが、塚の中から鬼女の姿になった岩手が現れる。 鬼女が遅いかかる中、数珠を押し揉み一身に祈る祐慶たち。 岩手の怒りと力は、やがて法力で弱まり、その浅ましい姿を恥じた岩手は姿を消すのであった。 第四 道行雪故郷 大和にある新口村。雪降り積もるこの村に辿り着いたのは、大阪新町の傾城・梅川と亀屋の養子・忠兵衛。 忠兵衛は梅川を身請けするため、公金横領の大罪を犯した。 死を覚悟する2人は、人目を盗み、忠兵衛の故郷・新口村まで逃れてきたのだった。 大恩受けた養い親に苦労かける不孝を嘆く忠兵衛。また梅川も自らのために罪を犯させたことを嘆き、許して欲しいという。 忠兵衛は産みの母の墓参りを共にして、梅川を嫁として対面させたいといい涙する。 梅川は嬉しく思うが、一方では京都で暮らす自らの母を思い出し、せめて一目会ってから死にたいと思い、むせび泣く。 親子の別れを覚悟する2人はそれぞれ親への想いを心に残し、その場を去るのであった。 第五 児雷也 (第一場 山中一ツ家の場) 越後の山奥にある藁葺き屋根の家に住んでいるのは、美しい越路。 そこに道に迷った児雷也が一夜の宿を求めて訪れる。 児雷也は越路に心奪われるが、越路は突然、桶にさした桜の枝を打ち付ける。 驚く児雷也は、越路の本性を尋ね、刀を抜く。 立ち廻る2人だが、越路の妖術に身体が痺れた児雷也は昏倒してしまう。 越路は、倒れた児雷也の二の腕に、牡丹のアザを見つける。 彼女は意識を取り戻した児雷也を夫と呼び、自らの腕にあるアザを見せる。 実は、越路は児雷也と許婚の仲の綱手であった。喜ぶ二人は抱き合おうとするが、雷鳴が鳴り響き、再び児雷也は昏倒してしまう。 (第二場 山中術譲りの場) やがて児雷也は目を覚ますが、そこは岩山の木立の中。 児雷也が訝しく思っていると、彼の本名「尾形弘行」を呼ぶ声がする。 岩の間から現れたのは、妖術を会得する仙素道人。 児雷也の義賊ぶりに感心している道人は、児雷也の父の最期の様子を語って聞かせる。 児雷也の父は、城持ちであったが、鎌倉の管領の悪計にかかり、無念の討死をしていた。 当時幼かった児雷也は、今こそ父の仇を討ち、尾形家を再興したいと願う。 児雷也の孝心を褒める道人は、妖術を伝授。児雷也が呪文を唱えると、岩がガマに変わって飛び出す。 児雷也は感謝し、その場を去るのだった。 (第三場 藤橋だんまりの場) 藤橋では、勇ましい姿の児雷也が鉄砲を打つ。 すると、藪から山賊・夜叉五郎と高砂勇美之助が現れる。 暗闇の中、3人は探りあうが、やがてガマが出現し、綱手も現れる中、一同が立ち廻る。 その後、現れた児雷也は、天紅の巻紙を手にすると、蝶と戯れながら、悠然と去っていくのであった。 【客入り】 中高年が多いが、若年層もチラホラ。もちろん満員。 【感想】 昨年同様、1年の締めは顔見世興行!というわけで観劇。 今回は、3列目花道近くとチケ代を奮発したので事前のワクワク感は過去一だった。 この年の顔見世興行、世間的には歌舞伎役者として舞台に立つ市川中車(香川照之)だったと思うのだが、中車が助右衛門を演じた元禄忠臣蔵は正直あまり印象に残っておらず、個人的には黒塚が一番面白かった。 鬼女(猿之助)が草むらにとんぼ返りを打つシーンとか印象に残っているし、ただの怒りではなく、悲しみや苦悩も見せる姿が良かった。 口上は、猿翁が欠席のため、猿之助、中車+藤十郎。主な口上内容は以下。 猿之助「9年ぶりの顔見世で、猿之助の名前は18年ぶりとなる。精進していくのでよろしくお願いいたします」 中車「中車の名の大きさは承知している。先代・中車のまねきがあがったのは48年前。自分が生まれたのも同じ48年前です。精進していくのでよろしくお願いいたします。また父が病気で口上に列座できなかったことをお詫びします」 道行雪故郷は、正直期待外れ。というか、さすがに藤十郎が梅川って、演技力だけでカバーするには無理がある。 最後の児雷也は、ガマの着ぐるみに笑った。 妖術を授けられるくだりは、水滸伝を彷彿とさせる話で、ラストで颯爽と去っていく児雷也は、顔見世興行のラストらしい華やかなもの。ただ個人的には、もっと動きがある演目の方が良かった。 内容としては、昨年の顔見世の方が好みだが、初見の演目ばかり良い席で観れたので、その意味では楽しい顔見世だった。 |
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