Mr.Win's Room

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カリフォルニア ボブ・ディランとビートニク探訪、そしてオープンマイク出演の旅 vol.2

西部の太陽の子、ディーン。
付き合うと面倒なことになるよ、とおばには警告されたが、ぼくには新しい呼び声に聞こえた。
新しい地平線が見えた。若いぼくにはそれが信じられた。
多少のトラブルはあったし、こっちが空腹で道端に倒れているとき、病気で臥せっているとき、さっさと見捨てていったというような、最終的にはディーンに友だちあつかいされなくなることもあったが――それがいったいなんだというのだ?
ぼくは若い作家で、飛び立ちたかった。
途中のどこかで女たちに、未来に、あらゆるものに会えるとわかっていた。
途中のどこかできっと真珠がぼくに手渡される、とも。

これはボブ・ディランが「ぼくの人生を変えた本」と言ったジャック・ケルアックの"On The Road (邦題:路上)で主人公のサル・パラダイスが旅に出る前に言うセリフだ。
日本では滅多にお目にかかれないサンフランシスコの急な坂を歩いていると、自分が"普段いるどこか以外の場所"にいることを感じ、このセリフを思い出す。
サルはニューヨークからヒッチハイクで、私は日本から飛行機でと、手段に違いはあるものの新しいものに会うことにワクワクしていたことに違いはない。
それにしても"On The Road"っていいタイトルだな。シンプルでピシッとした語感もいい。

ケルアックはタイトルをつける名人でもあった。
ビート・ジェネレーションの扉を開いた作品、アレン・ギンズバーグの"Howl and Other Poems"。この作品タイトルをつけたのもケルアック。
1956年11月に書店兼出版社のシティ・ライツ・ブックスから出版された本作は当初殆ど話題にならなかったが、書店のマネージャー、シゲヨシ・ムラオ、そしてオーナーのローレンス・ファーリンゲッティが逮捕されたことで事態は一変。
罪状は「"Howl"と雑誌"Miscellaneous Man"の販売」。曰くアメリカの教育上好ましくない猥褻な内容だからというもの。
最終的に裁判所で争われたこの件は、シティ・ライツ・ブックスの勝訴に終わる。
この結果、"Howl"は大きな知名度を得てベストセラーに。それは同時に、鍵をかけられていた表現方法が流れ出る契機にもなった。
North Beachにはシティ・ライツ・ブックスそのものを含め縁の地が多数存在する。

まずはChestnut StreetをTelegraph Hill Neighborhood Centerまで歩く。
そしてハワード・ハート(詩人)が暮らしていたアパートメントからさらに進むとあるのが、創設者ローレンス・ファーリンゲッティが住んでいたアパートメント。
1953年から58年、まさに53年創設〜56年アレン・ギンズバーグの"HAWL"発売という激動の時期、彼はこの場所からシティ・ライツに通っていたのだ。




この2枚は、ハワード・ハート(詩人)が暮らしていたアパートメント。


ローレンス・ファーリンゲッティが住んでいたアパートメント。

そしてGrant Streetを南下してGreenwich通り右側にリチャード・ブローティガン、ゲイリー・スナイダー、ボブ・カウフマンたちが非定期に詩の朗読会を行っていた地があるが、もう1つ南、Filbert Street沿いにはシティ・ライツの出版部が67年に書店から出て居を構えた跡地、そして出版物の編集作業場であったシティ・ライツ・アパートメント・オフィスの跡地がある。
アパートメント・オフィスにはアレン・ギンズバーグがよく泊まりに来ていた。
チャールズ・ブコウスキもシティ・ライツ・ブックスでのリーディングの後に一泊したことがある。
翌朝彼を見に来たスタッフが目にしたのはそこら中に散乱したビールや酒瓶、破壊された窓ガラスやドア、悔恨に沈むブコウスキの姿だった。(彼は恋人の仕業だと弁明した)


ここでリチャード・ブローティガン、ゲイリー・スナイダー、ボブ・カウフマンたちが非定期に詩の朗読会を行っていた。


シティ・ライツ出版部があった場所


シティ・ライツ・アパートメント・オフィスの跡地

Filbert Streetをもう少し東に歩くとボブ・カウフマン路地がある。
1988年1月、ファーリンゲティとシティ・ライツ・ブックスがサンフランシスコ管理委員会に提案していた「街のいくつかのストリートに、サンフランシスコに多大な影響を与えた文学者の名前をつける」というアイディアが認可され、元々はハーウッド路地という名だったこの小さい路地は、ボブ・カウフマンの名前を冠することになった。(彼は"ハーウッド路地の歌"という詩を書いている)




ボブ・カウフマン路地。きっと夜になればビー・バップのリズムが聴こえてくる......かもしれない。

Grant Streetに戻り、もう少し南下しよう。
左手を見てGrant Street1546で立ち止まる。今や面影は全くないが、シティ・ライツ出版部のすぐ近く、この場所にはThe Placeというバーがあった。
オープン・マイクによるポエトリー・リーディングが行われていたこの場所はジャック・ケルアック行きつけのバーだった。



かつての熱気の面影を残す場所もある。
1979年、雑誌"Beatitude"の資金集めのためのチャリティ・イベントが開かれ、ファーリンゲティ、ギンズバーグ、そして15年に渡る沈黙を破ってのボブ・カウフマン等によるポエトリー・リーディングが行われたのがレストラン・バー、サヴォイ・ティヴォリだ。




2枚ともサヴォイ・ティヴォリ。エントランスの矢印の先に、ポエトリー・リーディングの光景を想像してみよう。

さらに南下。Green Street界隈にもビートニク、それにロック・ファンなら見逃せない場所がいくつかある。
駆け足に写真で紹介していこう。


1978年、シティ・ライツ・ブックスの25周年記念パーティが開催されたスパゲティ・ファクトリー跡。


ゲイリー・スナイダーが暮らしていたアパートメント。


NYからサンフランシスコへ移ってきた詩人ケネス・パッチェンが暮らしたアパートメント


しかし、なんという傾斜だろう!


みんなのためのベイグル・ショップ。ケルアックの小説にも登場する。


カントリー、ブルーズなど歌っていた新人時代のジャニス・ジョップリンは、この場所にあったコーヒー・ギャラリーに出演していた。


その横には、シティ・ライツ・ブックスのマネージャー、シゲヨシ・ムラオが住んでいた。


ジャニスが飲んだくれていたバー、Anxious Aspの跡地。


詩人ジャック・スパイザーが足繁く通ったジノ&カルロ。


ジャズの伴奏に乗せて歌われる詩。ポエトリー・リーディングの先駆けとなった会場、ザ・セラー跡。

そしてカフェ・トリエステだ。
あらゆる詩人がここでコーヒーを飲んだ。詩人だけではない。フランシス・フォード・コッポラはこの店で"God Father"の脚本を書いていた。




開放的なテラス席。今なお、ここには自由の空気が流れている。


聖フランシス・ローマカソリック教会。旅の序盤で登場した聖フランシスの像!あれは元々、この教会にあった!

……とここまで歩いてきて時計を見た。時間は17時。
ボブの公演まであと2時間30分。
そろそろ会場の下見に行き、それからホテルにチェックインしよう。
トリエステの前には、ビートニク最大の聖地、シティ・ライツ・ブックが見えているが、そこは旅の最終日にしっかり観る予定。
China Townを南下し、賑やかな方へと歩く。サンフランシスコで流しのタクシーはあまり無いが、人通りの多いところまで行けば意外と捕まる。
ほら、タクシーが来た。

タクシーに乗ること10分。Bill Graham Civic Auditoriumに到着。
"Bob Dylan"の文字、そして公演ポスターを観て、いよいよボブに会える!とワクワクモードに。
ひとまずはここからホテルへの道を確認しよう。……あ。
ホテルへの地図を持ってくるの忘れてた!(・▽・)

仕方が無いので一旦大通りへ。住所から割り出そうと地図を見ていると、老婦人が「どうしたの?道が分からないなら手伝いましょうか?」と声をかけてくださった。
ホテルの住所を見せると、「あら、私すぐ近くに行くから一緒に行きましょう」と言ってくれた。
嗚呼、なんてフレンドリー。アメリカ、いい人ばっかりだな。と思いつつ会話。
「どこから来たの?」
「日本から。コンサートを観に来たんです」
「まぁ、遠くからようこそ!ちなみに誰のコンサート?」
「ボブ・ディラン」
「おお!私も今晩行くわよ!いや、さっきいた場所といい、コンサートといいもしやと思ったのよ!そう!あなたもボブのファンなのね!」
「あ!今晩行かれるんですか!もうボブ、大好きです。彼に会いに初めてのアメリカ旅行ですよ(笑)」
「素晴らしいわね!じゃあ新作も聴いた?」
「"Tempest"!近作の中で一番気に入っています」
「私も好きよ。そう……あのアルバムは……"Bringing It All Back Home"が発売された時も何度も聴き返したけど、同じぐらい聴き返してるわ」
「ああ、"Bringing It All Back Home"も大好きです。……ってか、"Bringing It All Back Home"をリアルタイムで聴いた世代!?凄っ!!」
「彼の音楽もライヴも……ずっと観続けてるわ。74年のツアーやローリングサンダーレビューはチケットが取れなかったから観てないけど。それでも……えぇ、いつだって彼の音楽が流れていたのよ」

50年近くファンだという人とこうやって会話できるって嬉しい。無事にホテルに着き、ライヴをお互い楽しむことを約束し、お別れ。
チェックインして荷物を置いて。さぁ、そろそろ会場に行こう。もうすぐボブと再会だ!
(続く)

(2012/10/17)



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