Mr.Win's Room

Mr.Win's Room

Home / Profile / Music Works / Essay / Report / Kyushu


Bitterdays,Sweetnights

先日観たミュージカル"Bitterdays,Sweetnights"の感想です。

まずはあらすじから。

ステージは白い紙が散乱し、空瓶が転がった雑然とした一室。客席から見て左端にピアノが1台。
カメラマンのミノル(橋本さとし)が部屋でぽつんと飲んだくれている。
酒が切れて、酒屋に注文の電話を入れ、少し経つとインターフォンが鳴る。扉を開けると、そこには雑誌編集者のヤヨイ(堀内敬子)が。
転がった酒瓶を片付け、ミノルに「凄い仕事のオファーが来た!」と言う。
彼女は妻のフユコが亡くなってからろくに仕事もしないミノルのために仕事を持ってきているのだ。
売れっ子スターの初写真集の撮影、しかも本人からの指名というビッグチャンスだが、ミノルは気が乗らないと断る。

「古ぼけた楽器の撮影はやったのにこんな大きな仕事を断るなんて、フユコも望んでいない!」と責めるヤヨイ。
ミノルは苛立ちヤヨイを追い出すと、入れ違いにまたインターフォンが。
酒屋かと思い扉を開いたミノルの目の前には、亡きフユコと瓜二つの姿が!
思わず幽霊かと勘違いするミノル。彼女は高校を卒業して単身アメリカに渡って以来音信不通だったフユコの妹・ナツコだった。

「ここは私の家だから」と言ってしばらく逗留するというフユコ。
姉について色々と聞くフユコ。そんなフユコに「それだけお姉さんが好きなら、なんで葬式に顔も出してやれなかった?」となじるミノル。
あくる日ミノルを訪ねてきたヤヨイもナツコを見てフユコと見間違い驚く。同時にフユコを忘れようとしているミノルとナツコは一緒にいるべきではないと感じる。

ある日ミノルが留守の間、ナツコは紐でグルグル巻きに封印されていたアルバムを興味本位で開く。
そこには写真とは思えない程生き生きとした姉の姿が。
「なぜこんな素晴らしい写真を飾らないで封印してしまうの?こんなお姉さんの表情見たことない」
「これは駄作だ!」
「お姉さんのせいにしないで。駄作だとしたら、それは写真家の腕が悪いからよ!」
「お前に写真の何が分かる?出ていけ!」
ナツコが出て行ったあと「お前を忘れることなんて出来ない」と歌い、写真を壁に貼るミノル。

カフェでナツコから話を聞いたヤヨイは「当分、私のところにいればいい」と言うが、ナツコは結局ミノルの元に戻ることにする。
昼間から飲んだくれ、仕事もしないミノルを見たナツコは、同時に壁に貼ってある姉の写真を見つける。
「あの写真封印するのやめたのね」
「お前はフユコに似すぎている。お前を見ていると、フユコの姿を忘れてしまいそうだから貼ったんだ」
ナツコは「私を撮って」というがミノルには彼女を撮ることができない。
妻を失って以来、彼は女性を撮る時、どうしてもシャッターが押せないようになっていたのだった。

医者からも精神的なおのだと言われ、フユコを忘れようとしたが結局無理だったというミノルにナツコはこう諭す。
「不眠の人に"寝なさい"と言っても、寝よう寝ようと思って逆に眠れないのと同じ。写真を封印したら逆に忘れられるわけないじゃない。もっと視野を広げないと」そう言って、カメラを手にミノルを外に連れ出す。

人々や街の風景の美しさ、写真の楽しさを感じ、久しぶりに気持ちよく痛飲するミノル。
部屋に帰ると、そこにはヤヨイの姿が。
ナツコがフユコの写真を貼ったのだと勘違いしヤヨイは詰め寄るが、ミノルはヤヨイを止め「(自分に仕事を持ってくるヤヨイが)フユコのため、フユコだったら……と責められているようで苦しかった」と吐露する。

ヤヨイが出ていき、ナツコはフユコと仲が悪くなった理由を話す。
彼女たちの母が癌で危篤になった時、ミュージシャンとして成功していた姉は見舞いに来ず、みっともない姿が見られないようにしてくれ、と言った。
母は死の直前まで「フユコはどこ?」と言っていたにもかかわらずだ。
だからTVをつければ姉が映っている日本が嫌でアメリカに行ったというフユコ。
「それでも葬式ぐらいは」と言うミノルに「危篤の知らせだったら行った。でも亡くなってしまったら、味方は他に誰もいないし戻れなかった」というナツコ。

別の日。ヤヨイに呼ばれて公園に向かうナツコ。
入れ違いに片言の日本語をしゃべる若い男がミノルの元へやってくる。
「ナツコはどこだ?」と聞く若者に公園に行ったと教えるミノル。

ヤヨイと会ったナツコ。ヤヨイはナツコにミノルとフユコの結婚式でフユコが歌った自作曲を聴かせる。
生きることの素晴らしさを謳ったその曲を歌う前、フユコは「今日この場にいない大切な2人、母と妹、そして自分たちのために歌う」と語ったと聞き、涙を見せるナツコ。
ミノルと出会い、そのせいでミュージシャンを辞めることになったけれども、姉は幸福だったのだということを知ったのだった。
そこに現れたのがミノルの元に来た若者。彼はアメリカからナツコを追っかけてきた恋人の日系アメリカ人・ジョンだった。
ジョンに「私は戻らない」と言うナツコ。
2人は共にミノルの部屋へと戻る。ジョンはミノルに「ナツコを大事にする覚悟があるか?」と聞く。
ナツコは母と同じく癌に侵されあと1か月しか生きられない身だったのだ。
驚くがジョンに「わからない」と答えるミノル。
ナツコはジョンに少し外で待っていてくれと言う。

2人きりになりナツコはミノルに1枚の写真を見せる。
姉の部屋にあった写真。それはミノルが高校の時に山の頂から撮ったもので、彼が写真家を目指すきっかけになった1枚だった。
「フユコと同じことを言わないでくれ」と絞り出すミノル。
フユコは生前、ナツコと同じように「この写真を撮った場所に行きたい」と言い、「危険だから」と止めていたミノルも根負けして行くことに。仕事が入り、行くのが遅れたミノルを麓で待ちきれなくなり単独で登山したフユコは事故に遭い亡くなったのだった。

姉の死の真相を聞いたナツコは「それなら尚更行かなければならない」と強く主張するがミノルは「そんなに行きたいなら片言日本語の恋人と一緒に行けばいいだろ」と反発する。
「そうする」と言って出ていくナツコ。そこにヤヨイがやってきて、しばらくするとジョンもやってくる。
「お前、ナツコと会っていたんじゃないのか?」とジョンに聞くミノル。
「会っていない」とジョン。
「写真の裏にあった山名を手がかりに一人で行ったのかも」と青ざめるヤヨイ。

ヤヨイとジョンに後押しされ、山へと向かうミノル。
山頂でナツコを見つけるとナツコは「来てくれたんだ」とほほ笑む。
そこでナツコを撮影するミノル。シャッターを押せたことを喜ぶナツコ。
フユコが歌った命の歌を全員が歌い終演。

細かい部分は間違っているかもしれませんが、大体こんな感じのストーリーでした。
今回の会場・CBGKシブゲキは、渋谷109の隣のビルにあるのですが、そもそもそんな場所に劇場があることを知らなかったのでビックリ。小さいハコの上、私は2列目ど真ん中だったので非常に見やすかったです。

ミュージカル!ということで歌ですが。出演者の中では、さすがに歌手としても活動しているだけあり新妻聖子さんが一番声が出ていました。
橋本さとしさんは、声があんまり響かないのとファルセットにしたいのか地声でやりたいのか微妙な部分もあり。でも演技は上手かったです。

で、それよりも何よりも気になったこと。
ミュージカルのストーリーに突っ込みを入れるのは野暮だと分かっていつつも、一番気になってしまったのは劇後半で突然降って湧いた「ヒロインが余命1か月」という設定。
なんじゃそりゃ?こんなに元気な余命1か月がいてたまるか!と、一気に白けてしまいました。
そもそも主人公の男も、妻を亡くしたショックとはいえ、要は自暴自棄になって周囲に迷惑かけてるだけのダメ男なわけで、シャッターが押せなくなる→思い出の山頂に登って亡き妻瓜二つの妹相手に押せました、というあまりにも陳腐なストーリー。いくらなんでも、これじゃあ出演者が良かろうと歌が良かろうと感動はできません。
せっかくステージのムード自体は良い感じだっただけに、ちと残念でした。

(2012/08/26)


copyright1
(制作:木戸涼)

(C) 2001-2025 copyrights.Ryo Kido