Mr.Win's Room

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英国ロイヤルオペラ マノン

 

2010年9月11日(土)午後3時開演
会場:東京文化会館
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:ロラン・ペリー

マノン・レスコー:アンナ・ネトレプコ
騎士デ・グリュー:マシュー・ポレンザーニ
レスコー:ラッセル・ブラウン
伯爵デ・グリュー:クリストフ・フィシェッサー
ギヨー・ド・モルフォンテーヌ:ギ・ド・メイ

【概要】

マノンはジュール・マスネ作曲のオペラで、1884年に初演されました。ストーリーの原作はアベ・プレヴォーの小説"マノン・レスコー"ですが、「マノンが自発的にデ・グリューを探し当てる」、「レスコーが何者かに殺される」といった原作のストーリーがかなり改編されています。
プッチーニが同じ原作を用いてオペラを作っていることでも有名。

【ストーリー】
第一幕
ギヨーとその友人ド・プレティニ、連れの女たちが腹ぺこを訴えるにぎやかなアンサンブルは準備が整ってようやく静まるが、間もなく駅馬車の出発時刻。
修道院に行くことになっている従妹マノンを迎えに来たレスコーは、到着したマノンの魅力に一瞬ハッとする。
マノンは、修道院への道のりなのに、見るものすべてが珍しく心奪われてしまうと無邪気に唄う。
一人で待つマノンにギヨーが口説きにかかるが、レスコーが戻ってくるので退散。
残されたマノンは、修道院に入らなければならない自分の身の上を、夢は捨てるのよ、と歌う。
そこに騎士・デ・グリューがやってくる。故郷の父の顔を思い浮かべるデ・グリューだったが、現実に目の前にしたマノンの美しさは魔法のように彼の心をとりこにしてしまう。
情熱的な愛に落ちた二人は二重唱を歌い、ギヨーの馬車で逃走する。

第二幕
愛の巣で暮らす、デ・グリューとマノン。
デ・グリューは父に、マノンとの結婚を許してもらえるよう手紙を書いている。手紙を読み上げる二人。
ふと、デ・グリューは心あたりのない花が届いていることに気づき動揺する。
実はマノンに横恋慕するド・ブレティニが贈ったものだったが、マノンはしらばくれる。
そこに、レスコーとブレティニが変装してやってくる。
ブレティニはマノンに近寄り、今夜、デ・グリューの父の命令により、息子が強制的に連れ去られる計画があることを伝える。
さらに、その計画をデ・グリューに知らせなければ、裕福にしてやるとの言葉に、マノンの心は大きく揺れる。
レスコーとブレティニが立ち去り、デ・グリューは幸せ気分で手紙を出しに行く。
一人残ったマノンは、恋人への愛と享楽的な生活のどちらを選ぶべきか悩む。ついにデ・グリューとの別れを選んだマノンは、彼にとって自分がいない方が良いのだ、と言い聞かせる。
やがてデ・グリューが帰ってくる。そして激しくドアをノックする音が。
デ・グリューから計画を聞いているマノンは、デ・グリューにドアを開けないで、と言うが、結局、デ・グリューはドアを開け、連れ去られる。
マノンは部屋に一人取り残される。

第三幕
(第一場)
享楽の生活を選び、美しく着飾ったマノン。パリの女王となった彼女に男の目は釘づけ。そこにやがてデ・グリューの父がやってきて、ド・ブレティニに息子の話をする。
そこで、デ・グリューの父が「息子は修道院で神父になっている」こと、「かつての恋人のことはもう忘れている」と言っているのを聞いたマノンはいても立ってもいられず、修道院へと向かう。

(第二場)
神父となったデ・グリューの前に現れたマノンは、彼の前に跪き、2人の愛を蘇らせようとする。
葛藤するデ・グリュー、必死に懇願するマノン。
デ・グリュー神父の素晴らしさを讃える賑やかな婦人たちと入れ替わりにデ・グリューの父が訪ねてくる。
父は、息子に良い妻を見つけることを勧めるが、デ・グリューは拒絶する。そして、どんなに努力してもマノンを忘れることはできない、と本心を吐露。
修道院にやってきたマノンは、デ・グリューを待つ間、彼の愛が自分に戻るよう、神に祈る。
現れたデ・グリューはマノンを見て驚き、はじめは冷たくするものの、耐え切れず、マノンを抱きしめる。

第四幕
再び愛の生活に投じたマノンとデ・グリューだったが、金がつき、工面するために賭博場へ。
レスコー、ギヨーのいる賭博場にやってきたマノンとデ・グリュー。
賭け事に気が進まないデ・グリューだが、マノンは「自分を愛しているならば、賭けにかって大金を掴んでほしい」と言われしぶしぶギヨーと勝負する。
結果は、デ・グリューの大勝利だったが、この結果にギヨーは烈火の如く怒る。
デ・グリューがいかさまをしたかのように責め、デ・グリューも自尊心から、潔白を明らかにするまで動かないと言う。
ギヨーが警官を連れて戻ってくる。デ・グリューはいかさまの主犯で、マノンは共犯だと訴えるギヨー。
デ・グリューが反撃しようとしたその時、父が現れ息子を押しとどめる。
マノンとの生活は家の恥だとと言う父に、デ・グリューは許しを乞うが聞き入れられない。
父の計らいにより、デ・グリューは一時拘束になり、マノンは監獄に送られる。

第五幕
デ・グリューはレスコーとともに護送の馬車を襲い、マノンを助け出そうと港に続く街道で待ち構えている。
ところが、レスコーが雇った男たちは怖気づいて逃げてしまった。
なすすべのないデ・グリューを慰め、護送する兵士に金を渡したレスコーは、マノンをひととき自由にするように頼む。
デ・グリューの目の前に現れたのは、痛々しく弱ったマノンだった。
既に自分が長くないことを悟ったマノンは、デ・グリューにこれまでの不実を許して欲しいと詫びる。
修道院でマノンが使った愛を思い出させる言葉を、今度はデ・グリューがマノンに向けるが、彼女にはもう時間が残されていない。
ほんのひととき、最期の瞬間、マノンはようやく、デ・グリューと心から愛し合う喜びを感じ「これがマノン・レスコーの物語」とつぶやいて息絶える。
(パンフレットより抜粋)

【客入り】
年齢層は高め(40代〜50代とおぼしき人が多いが、若年層もチラホラ。満員)


【感想】
初めて観る英国ロイヤルオペラ!18年ぶりの来日!ということで物凄く楽しみだった今回の公演。
結論から言うと、非常に素晴らしい内容でした。
マノン役のアンナ・ネトレプコさん、デ・グリュー役のマシュー・ポレンザーニさんとも素晴らしかったです。
特にネトレプコさん。有名なオペラ歌手だけに楽しみにしていたのですが、(第1幕の立ち上がりは不安定だったものの)1幕後半以降は圧巻でした。(出産したからか、少しふっくらとしていたのは驚いたけど)
私は3階L側の最前列だったので、オケピ含め全体が見渡しやすいポジションでした。

台詞は殆ど全てが歌の中にあるのでどんどん進行するストーリー。
そして、それぞれの幕にハイライト・シーンがあるので舞台から目が離せませんでした。
1幕ならば天真爛漫にマノンが歌う「わたしはまだ夢見心地で」。
2幕はデ・グリューとの愛ある生活と裕福で享楽な生活のどちらを選ぶべきか葛藤しつつマノンが歌う「さよなら、小さなテーブルよ」、そしてその後、ドアを開け、部屋から出ようとするデ・グリューを「行かないで」と押し止めるシーン。
3幕は裕福で華やかなマノンの登場シーンや、修道院でマノンへの想いを消そうとするデ・グリューの歌「消え去れ、面影よ」、マノンが床に伏して愛を思い出してと請い「あなたが握る手は、私の手じゃないの?」と歌いベッドで官能的にデ・グリューを見つめるシーン。
4幕はデ・グリュー、マノン、ギヨーがそれぞれの気持ちを歌う賭博シーン。
5幕はラスト。自分の過去の不実を侘び、「これがマノン・レスコーの物語」とつぶやいて息絶えるシーン。

特に2幕、3幕、そしてラスト・シーンは息を呑みました。
その中でも3幕の修道院が一番のハイライト。歌の面でも演技の面でも、最大の見せ場。
前半はデ・グリュー、そして後半はマノンの独壇場でした。

……マノンという女性は、正直なところ(ラストシーンまでは)不実でひどい女性です。
でも、そんな女性でも愛してしまったが最後、理性では制御できない、というデ・グリューの気持ちは凄く分かります。
彼は、マノンと出会わなければ、家名も汚さない立派な騎士としてそれなりに幸せになったかもしれません。
(原作では違うようですが)オペラでのデ・グリューは賭け事が嫌いで、マノンと離れ離れになった後、聖職者になるような生真面目な人物。
しかし、マノンと出会ったことで、家の名誉も、賭け事をしないという自分自身のポリシーすらも捨て去ることになります。
それは全てマノンのため。まさに「愛とは自分以上の大きな存在に出会うこと」と言うのがピッタリです。
(だからこそ、賭け場で自分の名誉のためデ・グリューが立ち去るのを躊躇する、全てをマノンに捧げ切れなかったこの行為が、最終的にマノンが死ぬ伏線のようにも感じました)

個人的にはこの話の結末は、以下のような展開でもそれなりに成り立つと思います。
捕まってしまうのはマノンではなくデ・グリュー。
それを助けに行こうとするマノン。
しかし恐れをなした仲間たちはみんな離散してしまう。
マノンはデ・グリューを救えず悲嘆にくれるも、その後、ド・プレティニ(あるいはギヨーと)よりを戻して愛人になり、再び華奢な生活に戻る。デ・グリューはそれを知らず流刑の地でマノンを思いながら孤独に死ぬ……。

この展開だと、マノンは最後まで官能的だけど、ひどい女。
そして、デ・グリューはそんな女を命がけで愛した結果、不幸な死を遂げた男。
それでも、話としては成り立つし教訓めいたものも感じられるけれど報われない。完全な悲劇です。(そもそも19世紀当時、見合いの場として利用されていたコミック座にふさわしくない内容になってしまうし)

「どんなに不実な女性でも、愛してしまえば忘れることなどできない。たとえ全てを失っても愛しぬくしかない」というデ・グリューの気持ちは物凄く共感できるし、だからこそ、マノンがデ・グリューを本気で愛しながら死ぬことで、2人の愛情が永遠に変わらないものに昇華され、彼もある意味報われるラストシーンは良かったです。
死んで終わるというのは悲劇性。でも、本当の愛を信じて終わるという喜劇性。
プログラムに、本公演の演出を手がけたロラン・ペリーのインタビューがあり、その中で彼は「僕は喜劇が大好き、そして喜劇と悲劇の境目のところに魅力を感じます。"マノン"はまさにこの中間にあるでしょ」とコメントしているのですが、まさにその通りだな、と思いました。
そういう意味では、今回の来日で上演されるもう1作「椿姫」も喜劇と悲劇の中間にある作品だと思います。

カーテンコールは登場人物、そして指揮者のアントニオ・パッパーノがそれぞれ挨拶し、一度カーテンが降りた後、その隙間から再び主要メンバー1人ずつが挨拶。最後に並んで挨拶。
特にアンナ・ネトレプコ(マノン)、マシュー・ポレンザーニ(デ・グリュー)、アントニオ・パッパーノには大きな歓声があがっていました。



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