吉例顔見世興行(千秋楽・午後の部) 2009年12月26日(土)午後4時15分開演 会場:京都・南座 第一 天満宮菜種御供 時平の七笑 第二 土蜘 長唄囃子連中 第三 助六曲輪初花桜 第四 石橋 【概要】 吉例顔見世興行は向こう1年の一座の顔ぶれを披露する興行で、350年以上の歴史を有する「歌舞伎の国の正月」とも呼ばれる最大級のイベント。 夜の部では、以下の4本が公演された。 第一 天満宮菜種御供 時平の七笑 学問の神様で有名な菅原道真が、政敵・藤原時平の謀略により、天皇への謀反の罪に問われ、右大臣の身分をはく奪の上、追放されてしまう、という話です。 舞台は内裏にある記録所(裁判所)。中央に長である定岡たちが並んでいる。彼らは左大臣・藤原時平の部下・玄蕃を召し出し、道真が参内したら厳しく監視するように命じる。 やがて道真が参内し、取り調べ開始。謀反は根も葉もない作りごとなのだが、定岡たちは道真を責めて装束を剥ぎ取るように命じる。 玄蕃は、謀反は讒言だ!と言い放つが、唐国の使者・天蘭敬を引き出すと、彼は「道真は唐の大王と示し合わせ、日本を唐の属国化しようとしている」と証言する。 道真はなおも無罪を主張するも、「太宰府に左遷。筑紫に流罪」との宣命がくだってしまう。これを聞いた定岡は、道真の冠を打ち落とす。 この様子を見た希世は、道真の書の弟子にもかかわらず、子弟の縁を切り、道真を縛りあげようとする。 そこへ時平が登場。道真を弁護するが、謀反の証拠となる密書を見せられ悲嘆にくれる。 折からここへ道真の弟子の子供たちが道真を見送りに来る。定岡たちは追い返そうとするが、子どもたちの気持ちに感じ入った時平は会うことを許し、一方、弟子でありながら縛りあげようとした希世の官位を剥奪し、都から追放すると言い放つ。 子どもたちとの別れを惜しむ道真に、時平は「帰参の勅命がくだるのを待つように」と声をかける。 時平に感謝を述べ、道真は連行されていく。 そして一人残った時平。内裏の階段に腰をかけると表情が変わり、高らかな笑い声が。 道真を陥れた張本人こそが、時平だったのだ……。 第二 土蜘 長唄囃子連中 土蜘の妖怪を、源頼光の家来・保昌とその四天王が退治する、という話です。 武勇で名高い源頼光であったが、先ごろより病床に就いていた。僧侶たちの祈祷で快方に向かう中、見舞いに訪れた侍女の舞を見る。 その後、夜が更け、再び発熱してしまった頼光のもとに一人の僧侶が訪れる。頼光は比叡山の学僧だという彼の祈祷を依頼するが、灯火に映る怪しい影に気づいた家来・音若が「ご油断あるな!」と一声叫ぶと灯火が消え、僧侶は千筋の糸を繰り出して姿を消した。 この騒ぎを聞きつけ駆け付けた保昌は、僧侶は土蜘の精であろうと推察。頼光は保昌に土蜘退治を命じる。 さて、話変わって館の広庭。番卒の太郎、次郎がやって来る。土蜘退治のお触れが出ているにもかかわらず、恐れて仮病を使う家来たちの臆病さを嘆いた2人は、土蜘退治の成就を祈願するため、石神の像を前に巫女に舞を舞わせる。 すると、皆が踊る中、石神の面が落ちる。実はこの石神、小姓の四郎吾が皆をからかおうと扮していたもの。これに気づいた太郎と次郎は、四郎吾を追っていくのであった。 一方、保昌と彼の誇る四天王たちは、東寺の裏にある古墳へやってくる。 保昌たちは軍卒に、古墳を崩すように命じる。すると、中から土蜘の精が姿を現す。千筋の糸を繰り出して戦う土蜘に悩まされる保昌たちであったが、ついに退治に成功するのだった。 第三 助六曲輪初花桜 華やかな遊郭を舞台に、花魁・揚巻と、その情夫で伊達男の助六、揚巻に入れ込む意休らを主人公とした一幕です。 場面は吉原。全盛を誇る遊郭・三浦屋の花魁(おいらん)・揚巻とその妹分の白玉、取り巻きたち。 揚巻に入れ上げ通う客・意休。しかしいくら口説いても、揚巻には助六という情夫がいるため、相手にされない。 業を煮やし、意休は助六を盗人呼ばわりする。というのも、助六は三浦屋に来る遊客に喧嘩をけしかけては、相手の刀に手をかけるからだった。 助六を罵倒され腹を立てた揚巻は意休に散々、悪態をつく。売り言葉に買い言葉の応酬が続くが結局、揚巻は店の中に戻る。 と、その時助六が登場。伊達男ぶりを見せ付ける助六。苦々しく思う意休。 折から、意休の子分・くわんぺら門兵衛が現れる。「女郎の二十売りが発覚した」と、不愉快げに話す門兵衛。そこへ通りすがりのうどん屋の出前持ちが門兵衛とぶつかる。門兵衛は言いがかりをつけるが、最終的に、助六にうどんを頭からかけられてしまう。 そこへ白酒売りの新兵衛が現れ、助六を呼び止める。実は助六は、本名・曽我五郎時致の世を忍ぶ仮の姿。新兵衛はその兄であった。 助六が喧嘩を売るのは、紛失した源氏の重宝である友切丸の行方を捜すため、相手の刀をぬかせ、中身を改めていたのである。 喧嘩ばかりする弟を諫めにきた新兵衛であったが、助六の真意を聞き、一緒に喧嘩を売ることにする。 そこに、若衆や通行人が登場。2人は股をくぐらせたり、刀をぬかせたり、と言いがかりをつけるのだった。 この時、店の中から揚巻が客の侍を見送りに出る。 揚巻が自分以外の客を取ったと思いこみ、客に喧嘩をふっかける助六であったが、その顔を見て引き返す。 客は、兄弟の母・満江だったのだ。喧嘩に明け暮れる子どもを諫めるために武士に姿をやつして来た満江は、喧嘩の真の目的を知り、守りの紙衣を渡し帰る。 そこへ意休が店が出てくる。 助六が曽我五郎だと知った意休は、亡父の仇も討たずに遊郭に入り浸る助六を罵倒するが、母の心を思う助六は無益な喧嘩はせぬとばかりに耐える。 その様子を見た意休は、「兄弟が力を合わせれば大願成就も近かろう」と言いながら傍らにある香炉台を真っ二つに切り捨てる。 意休の刀を見て意気込む助六。実は意休の刀こそ、探し求めていた友切丸だったのだ。 血気盛んな助六は、意休を追おうとするが、揚巻は人目もあるので、意休が遊郭から帰るのを待ち受けるよう押し止め、手筈を耳打ちする。 揚巻の言葉に従い、助六はひとまずその場を立ち去るのだった。 第四 石橋 中国・唐の国の清涼山を舞台に、獅子の精が舞い踊る舞台です。 (ストーリーは割愛) 【客入り】 中高年が多いが、若年層もチラホラ。もちろん満員。 【感想】 南座界隈は数え切れないぐらい歩いているにもかかわらず、中に入るのは今回が初めて。 しかも、顔見世興行というビッグイベントで入れるとは思っていなかったので、とても楽しみにしていました。 観劇のきっかけは、いつもお世話になっている京都のとあるお店の店長と「もうすぐ顔見世興行ですね〜」という話をした時のこと。 「実は南座に入ったことがないんですよ」と言ったところ、「今回の顔見世は、助六。しかも玉三郎と仁左衛門だから素晴らしいですよ」と教えてもらったのです。 歌舞伎は高校の頃に数回見た程度で、詳しい知識もないのですが、当代の坂東玉三郎、それに片岡仁左衛門といった名前は、そんな私ですら知っている名役者さん。顔見世興行が南座最大級のイベントであり、長い歴史を持つということは知っていたので、「凄い盛り上がるでしょうね〜」と応えたところ、なんとチケットを確保できるかもしれないとのこと。 ご尽力いただいて、2Fの右手2列目の席で観ることができました!(この場を借りて、お礼申し上げます) さて観劇そのものの感想の前に、当日の私の行動を書きましょう。 この日(12/26)は、ボブ・ディランの8年ぶりの来日公演が発表された直後で、大阪公演のインターネット予約初日でした。 なので、朝は11:00にPC前にスタンバイ。うまいこと4公演すべての予約に成功し、こちらにもワクワクしながら、15:20頃、南座に出発しました。ディランも歌舞伎は観たことあるのかな?ジョン・レノンは、歌舞伎を見て感涙したことがあったそうだ、なんてことを思い出しながら15:40過ぎに会場到着。 まずは1Fでプログラムとお弁当購入。缶ではありますが甘酒が売っているのを見て、南座にいるんだな〜と思ったり(笑) 沢山のお客さんの熱気にもわくわくしながら、席に到着。 客席から見て、ステージ右側のサイド・シートでしたが、ハコそのものが小さいので(収容数・1078名)ステージは近く、死角になっているステージ右手も、若干身を乗り出せば見れる好位置でした。 全般の感想としては、華やかな演目、メジャーどころの演目が取り上げられており、分かりやすかったな、ということ。 それぞれの演目のストーリーは、上述したとおりですが、以下、印象に残った場面を書きます。 第一 天満宮菜種御供 時平の七笑 希世が衣服を剥がれるシーンでは、「麻呂もまろはだか(丸裸)にされてしもうた〜」とダジャレを言って、観客席から失笑が(笑) 見どころはラストで時平が豹変し「我が計が成功したぞよ」とばかりに大笑するシーン。 幕が閉まってからも笑い声が聞こえて観客席から再度拍手。 第二 土蜘 長唄囃子連中 土蜘との立ち回りのシーンにつきます。歌舞伎の勇壮な部分を見せてくれました。 第三 助六曲輪初花桜 何よりもステージの華麗さがまず素晴らしかった。 そして玉三郎が演じる揚巻は綺麗でした。仁左衛門が演じる助六は声がかすれるところもありましたが、見栄を切る場面は大歓声。 面白かった場面は、助六、新兵衛兄弟が道行く人に喧嘩を吹っ掛けるシーン。 2人目の通行人に助六が喧嘩を吹っ掛ける(「俺の股をくぐれ!」と言う)と、通行人が言います。「アンタ、私の好きな仁左衛門さんに似ているからいいわよ」と言ってみたり、新兵衛には、「あたしに似てるわね〜」と言ってみたり(笑) 2人目の通行人を演じているのは中村翫雀。そして新兵衛を演じているのは、坂田藤十郎(中村翫雀の実の父)なのです。 この辺のやり取りに観客席からは歓声が。しまいには、「今日は顔見世興行の千秋楽!京都・南座に行かなくちゃ!」と言って舞台を去るものですから、大歓声が。 第四 石橋 4つの演目中、実はこれが一番気に入りました。 和楽器のリズムにのって舞う獅子は非常にダイナミックで、ステージに舞い散る花びらも華やかでした。 桜吹雪が舞い散る中、頭を振りまわす赤獅子と白獅子は見応えありました。 |
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